KPMGで監査、IPO、M&A、財務戦略に関わってきた立場から見ると、量子コンピュータは、短期の売上規模だけで評価すべき市場ではありません。むしろ、半導体、AI、暗号、素材、化学、金融、創薬、防衛を横断し、将来の計算能力と国家競争力を左右する、長期型の戦略技術市場です。
量子コンピュータ:量子力学の性質を利用して、特定の問題で従来型コンピュータを大きく上回る計算を目指すコンピュータ。
量子力学:原子や電子など非常に小さな世界で成り立つ物理法則。重ね合わせ、干渉、もつれなどの性質を持つ。
国家戦略技術:安全保障、産業競争力、標準化、サプライチェーンに直結するため、国家単位で投資・保護される技術。
量子コンピュータは、すべての計算を速くする万能コンピュータではありません。強みを持つ可能性があるのは、分子シミュレーション、材料探索、最適化、暗号解析、量子機械学習など、一部の極めて複雑な問題です。したがって、この市場を見る際には、「いつ一般利用されるか」ではなく、「どの産業のどの問題に量子優位が出るか」を見る必要があります。
量子優位:量子コンピュータが、特定の問題で古典コンピュータより実用的に有利な結果を出すこと。
分子シミュレーション:分子や化学反応の振る舞いを計算で予測すること。創薬、材料、触媒開発で重要。
最適化:多数の選択肢の中から、制約条件を満たしつつ最も良い解を探すこと。物流、金融、製造で使われる。
参照図表1:世界量子コンピュータ市場規模の推移
量子コンピュータ市場は、調査会社によって定義が大きく異なります。量子ハードウェア、クラウドアクセス、ソフトウェア、研究開発サービス、量子通信、量子センシングまで含めるかで数値が変わります。MarketsandMarketsは、量子コンピューティング市場を2025年35.2億ドル、2030年202.0億ドルと予測しています。一方、McKinseyは量子技術全体が2035年までに最大970億ドルの売上を生み、その大部分を量子コンピューティングが占める可能性があると見ています。
量子技術:量子コンピューティング、量子通信、量子センシングを含む技術領域。
量子通信:量子力学の性質を使って、盗聴検知や安全な鍵配送を目指す通信技術。
量子センシング:量子状態の高感度な変化を利用して、磁場、重力、時間、加速度などを精密に測る技術。
クラウドアクセス:量子コンピュータ本体を所有せず、クラウド経由で利用する方式。
単位:十億米ドル。MarketsandMarketsの2025年・2030年予測を基に作成。
単位:十億米ドル。McKinseyの2035年量子技術売上見通し、BCGの2040年ハードウェア・ソフトウェア市場見通しを比較。
この市場で注意すべきなのは、短期の売上規模が小さい一方、長期の経済価値が極めて大きいという非対称性です。BCGは、量子コンピュータが2040年までに4,500億〜8,500億ドルの経済価値を生み、ハードウェア・ソフトウェア提供者に900億〜1,700億ドルの市場をもたらす可能性があると見ています。つまり、量子コンピュータは「今すぐ巨大市場」ではなく、「技術的臨界点を越えると急拡大し得る市場」と見るべきです。
経済価値:量子コンピュータによって、コスト削減、性能向上、新薬・新材料開発、金融最適化などで生まれる広い価値。
技術的臨界点:研究段階の技術が、実用的な性能・コスト・信頼性に到達し、市場拡大が始まる転換点。
ハードウェア・ソフトウェア市場:量子コンピュータ本体、制御装置、クラウド、開発環境、アルゴリズム、アプリケーションを含む市場。
1. 量子コンピュータとは何か
量子コンピュータとは、量子ビットを使って計算するコンピュータです。従来のコンピュータは0または1のビットで計算しますが、量子ビットは重ね合わせや量子もつれを利用できます。これにより、特定の問題では、従来型コンピュータでは現実的な時間で解けない計算を高速化できる可能性があります。
量子ビット:量子コンピュータの情報単位。0と1の重ね合わせ状態を取ることができる。
重ね合わせ:量子状態が複数の状態を同時に含むように表現される性質。
量子もつれ:離れた量子同士の状態が強く相関し、一方を測ると他方の状態にも関係が現れる性質。
古典コンピュータ:現在一般に使われているCPU、GPU、サーバー、スーパーコンピュータなどの従来型計算機。
ただし、量子コンピュータは「速いパソコン」ではありません。Excel、Web検索、通常のAI推論、一般的な業務処理がすべて速くなるわけではありません。量子コンピュータが力を発揮し得るのは、量子状態のシミュレーション、組合せ最適化、暗号、特定の線形代数、サンプリング問題など、数学的構造が量子計算に適した領域です。
組合せ最適化:配送ルート、ポートフォリオ、工場計画など、多数の選択肢から最適な組合せを探す問題。
線形代数:ベクトルや行列を扱う数学分野。AI、シミュレーション、金融工学の基礎にもなる。
サンプリング問題:複雑な確率分布からサンプルを生成する問題。量子計算の優位性検証で使われることがある。
参照図表2:量子コンピュータ・バリューチェーン図
量子コンピュータ産業を理解するには、量子チップだけを見るのでは不十分です。量子ビット方式、冷却装置、制御電子機器、量子誤り訂正、ミドルウェア、アルゴリズム、クラウド、アプリケーション、量子人材までを含む長いバリューチェーンで構成されています。
図表2:量子コンピュータ・バリューチェーン図
量子コンピュータは、量子チップ単体ではなく、冷却・制御・ソフトウェア・応用まで含む総合システム。
| 領域 | 主な役割 | 代表的プレイヤー・技術 |
|---|---|---|
| 基礎研究・方式 | 量子ビットの物理方式を選び、性能を高める | 超伝導、イオントラップ、中性原子、光量子、シリコン量子ドット |
| 量子ハードウェア | 量子状態を作り、保ち、測定する装置を構築する | IBM、Google、IonQ、Quantinuum、Rigetti、D-Wave、Pasqal、PsiQuantum、IQM |
| 冷却・制御装置 | 極低温、レーザー、真空、マイクロ波制御を提供する | 希釈冷凍機、レーザー、FPGA、ASIC、制御電子機器、計測器 |
| 誤り訂正 | 量子ノイズを抑え、長い計算を可能にする | 表面符号、qLDPC、論理量子ビット、リアルタイムデコーダ |
| ソフトウェア | 量子回路、コンパイル、シミュレーション、アプリ開発を支える | Qiskit、Cirq、PennyLane、tket、量子アルゴリズム、ハイブリッド計算 |
| アプリケーション | 産業課題へ量子計算を適用する | 化学、材料、創薬、金融、物流、暗号、HPC、AI |
| 区分 | 領域 | 主な構成要素 |
|---|---|---|
| Layer 01 | 基礎研究・方式 | 超伝導、イオントラップ、中性原子、光量子、シリコン量子ドット |
| Layer 02 | 量子ハードウェア | 量子チップ、冷却、レーザー、真空、制御配線、測定装置 |
| Layer 03 | 制御・誤り訂正 | パルス制御、デコーダ、QEC、論理量子ビット、補正回路 |
| Layer 04 | ソフトウェア・SDK | 量子回路、コンパイラ、シミュレータ、ハイブリッド計算 |
| Layer 05 | クラウド・利用基盤 | 量子クラウド、HPC連携、GPU連携、ワークフロー管理 |
| Layer 06 | アプリケーション | 化学、材料、金融、物流、創薬、暗号、機械学習 |
超伝導量子ビット:極低温で超伝導回路を使って量子ビットを作る方式。IBMやGoogleなどが採用。
イオントラップ:電磁場でイオンを閉じ込め、レーザーで制御する方式。高い精度が特徴。
中性原子:電荷を持たない原子をレーザーで配列・制御する方式。拡張性が期待される。
希釈冷凍機:量子チップを絶対零度近くまで冷却する装置。超伝導方式で重要。
SDK:Software Development Kitの略。量子プログラムを開発するためのツール群。
2. 量子コンピュータ分野における技術課題とは
第一の課題は、量子ビットが非常に壊れやすいことです。量子状態は、熱、振動、電磁ノイズ、測定、制御誤差によって簡単に乱れます。この乱れをデコヒーレンスと呼びます。量子コンピュータを実用化するには、量子状態を十分長く保ち、正確に操作し、誤差を検出・補正する必要があります。
デコヒーレンス:量子状態が外部環境との相互作用で壊れ、量子計算に使えなくなる現象。
量子ノイズ:量子ビットの状態やゲート操作に生じる誤差やゆらぎ。
制御誤差:量子ビットを操作するパルスやレーザーが理想どおりに働かず、計算結果に誤差が出ること。
第二の課題は、量子誤り訂正です。現在の物理量子ビットは誤りが多く、そのままでは長い計算を実行できません。そのため、多数の物理量子ビットを使って、より信頼性の高い論理量子ビットを作る必要があります。IBMは、2029年に200論理量子ビットで1億ゲート規模の計算を実行するStarling、2033年に2,000論理量子ビットで10億ゲート規模のBlue Jayを目指すロードマップを示しています。
量子誤り訂正:量子ビットに発生する誤差を検出・補正し、計算を安定させる技術。
物理量子ビット:実際のハードウェア上に存在する量子ビット。ノイズの影響を受けやすい。
論理量子ビット:複数の物理量子ビットを組み合わせて作る、より安定した量子ビット。
量子ゲート:量子ビットに対する計算操作。古典コンピュータの論理ゲートに相当する。
第三の課題は、実用アルゴリズムです。量子コンピュータが理論的に有利でも、現実の産業問題で価値を出すには、問題を量子計算に適した形へ変換し、古典計算とのハイブリッドで解く必要があります。化学、材料、金融、物流、創薬で期待される一方、どの問題でどの時点から商用価値が出るかはまだ不確実です。
量子アルゴリズム:量子コンピュータで実行する計算手順。Shor、Grover、VQE、QAOAなどが代表例。
ハイブリッド計算:量子コンピュータと古典コンピュータを組み合わせて計算する方式。
VQE:Variational Quantum Eigensolverの略。量子化学計算などで使われる変分型アルゴリズム。
QAOA:Quantum Approximate Optimization Algorithmの略。組合せ最適化問題への応用が期待されるアルゴリズム。
第四の課題は、サプライチェーンと人材です。量子コンピュータには、希釈冷凍機、レーザー、真空装置、精密制御電子機器、半導体製造、特殊材料、低温配線など、非常に専門的な部品と技術が必要です。研究者だけでなく、量子物理、制御工学、低温工学、半導体、ソフトウェア、アルゴリズムを横断する人材が必要になります。
低温工学:極低温環境を作り、維持し、装置を動かすための工学分野。
制御電子機器:量子ビットに精密な信号を送り、状態を測定するための電子装置。
低温配線:極低温環境で信号を伝える配線。熱流入を抑えながら制御信号を届ける必要がある。
参照図表3:技術ブレイクスルー整理図
量子コンピュータのブレイクスルーは、量子ビット数を増やすだけでは起きません。量子ビットの品質、誤り訂正、冷却・制御、接続性、ソフトウェア、実用アルゴリズム、量子クラウド、量子安全暗号が組み合わさることで、初めて産業利用に近づきます。
図表3:量子コンピュータ技術ブレイクスルー整理表
課題、解決技術、主要プレイヤー、主なアプリケーションを対応させて整理。
| 技術領域 | 解決する課題 | 主要プレイヤー・技術 | 主なアプリケーション |
|---|---|---|---|
| 量子誤り訂正 | ノイズ、長時間計算、信頼性 | IBM、Google、Quantinuum、Microsoft、表面符号、qLDPC | フォールトトレラント量子計算、化学、暗号、材料 |
| 論理量子ビット | 物理量子ビットの誤差、スケール問題 | IBM Starling、Google Willow系研究、Quantinuum、IonQ | 実用アルゴリズム、長い量子回路 |
| 量子ハードウェア方式 | 拡張性、精度、接続性、製造性 | 超伝導、イオントラップ、中性原子、光量子、シリコン量子ドット | 量子クラウド、研究、産業PoC |
| 冷却・制御・測定 | 安定稼働、ノイズ低減、リアルタイム制御 | 希釈冷凍機、レーザー、FPGA、ASIC、低温CMOS | 量子データセンター、商用量子システム |
| 量子ソフトウェア | 開発難易度、アルゴリズム実装、古典計算連携 | Qiskit、Cirq、PennyLane、tket、量子コンパイラ | 化学、材料、金融、機械学習、HPC連携 |
| 量子化学・材料計算 | 古典計算では困難な分子・材料シミュレーション | VQE、量子シミュレーション、HPC連携 | 創薬、触媒、電池材料、肥料、半導体材料 |
| ポスト量子暗号 | 将来の暗号解読リスク | NIST標準、PQC、暗号移行、Microsoft等の量子安全対応 | 金融、政府、通信、長期機密データ保護 |
フォールトトレラント:部品や量子ビットに誤りが発生しても、計算全体を正しく続けられる性質。
qLDPC:Quantum Low-Density Parity-Check Codeの略。少ないオーバーヘッドで誤り訂正を目指す量子誤り訂正符号。
低温CMOS:極低温環境で動作する制御用半導体。量子チップ近くで制御するために重要。
ポスト量子暗号:量子コンピュータでも破られにくいとされる暗号方式。PQCとも呼ばれる。
3. 量子コンピュータにおける技術的解決、すなわちブレイクスルーとは
第一のブレイクスルーは、量子誤り訂正です。現在の量子コンピュータはNISQ時代と呼ばれ、ノイズのある中規模量子デバイスが中心です。NISQでも研究価値はありますが、産業上大きな価値を生むには、誤り訂正された論理量子ビットを使うフォールトトレラント量子コンピュータが必要になります。
NISQ:Noisy Intermediate-Scale Quantumの略。ノイズがある中規模量子コンピュータの時代を指す。
中規模量子デバイス:量子ビット数は増えているが、誤り訂正が十分でなく、長い計算には向かない量子装置。
論理エラー:誤り訂正を行っても残る計算上の誤り。実用化には論理エラー率を十分低くする必要がある。
第二のブレイクスルーは、量子データセンター化です。量子コンピュータは単体の箱ではなく、冷却、制御、古典計算、クラウド、HPC、GPUを統合した計算インフラになります。IBMは、2029年以降のフォールトトレラント量子コンピュータを視野に入れ、量子データセンターとしての構成を示しています。
量子データセンター:量子プロセッサ、冷却装置、制御装置、古典計算機、クラウド基盤を統合した計算施設。
HPC:High Performance Computingの略。スーパーコンピュータなど高性能計算基盤。
GPU連携:量子計算の前処理・後処理・シミュレーションにGPUを組み合わせること。
第三のブレイクスルーは、量子化学と材料計算です。量子コンピュータは、量子力学に従う分子や材料のシミュレーションと相性がよいと考えられています。創薬、触媒、電池、肥料、半導体材料では、古典コンピュータでは近似が必要な問題が多く、量子計算が有効になる可能性があります。
触媒:化学反応を促進する物質。化学品、燃料、肥料、環境技術で重要。
近似:複雑すぎる問題を、計算可能な形に単純化して扱うこと。
量子シミュレーション:量子系を量子コンピュータで模擬し、分子や材料の性質を計算すること。
第四のブレイクスルーは、ポスト量子暗号への移行です。大規模な量子コンピュータが実現すると、現在広く使われる公開鍵暗号の一部が危険になる可能性があります。そのため、量子コンピュータの完成を待たず、金融、政府、通信、医療、クラウドでは、量子安全な暗号方式への移行準備が進み始めています。
公開鍵暗号:インターネット通信、電子署名、金融取引で使われる暗号方式。RSAやECCなどが代表例。
Harvest Now, Decrypt Later:今は解読できない暗号データを盗み、将来の量子コンピュータで解読する攻撃リスク。
暗号移行:既存システムの暗号方式を、新しい安全な方式へ段階的に置き換えること。
4. ブレイクスルーを担うプレイヤーとアプリケーション
量子コンピュータ市場を牽引するプレイヤーは、方式ごとに分かれます。超伝導ではIBM、Google、Rigetti、IQMが重要です。イオントラップではIonQ、Quantinuumが存在感を持ちます。中性原子ではPasqal、QuEra、Atom Computingが注目され、光量子ではPsiQuantum、Xanaduが知られています。さらに、Microsoft、Amazon Braket、NVIDIA、Intel、D-Waveなども、それぞれ異なるポジションで量子エコシステムを形成しています。
量子エコシステム:ハードウェア、ソフトウェア、クラウド、研究者、企業ユーザー、政府支援が連携する産業生態系。
量子アニーリング:最適化問題に特化した量子計算方式。D-Waveが代表的プレイヤー。
Amazon Braket:AWSが提供する量子コンピューティングサービス。複数方式の量子ハードウェアへアクセスできる。
アプリケーションで見ると、最初に期待されるのは、化学、材料、創薬、金融、物流、エネルギー、暗号です。特に、電池材料、触媒、CO2削減、肥料、半導体材料、医薬品候補探索、ポートフォリオ最適化、リスク計算は、量子コンピュータの産業応用として注目されています。ただし、短期的にはPoCや研究用途が中心であり、本格商用化には誤り訂正と産業アルゴリズムの成熟が必要です。
PoC:Proof of Conceptの略。技術が特定用途で有効かどうかを試す実証。
ポートフォリオ最適化:金融資産の組み合わせを、リスクとリターンを考慮して最適化すること。
リスク計算:金融、保険、エネルギーなどで、損失確率や価格変動を計算すること。
原田浩志としての市場観:量子コンピュータは「計算資本の次の地平」である
私が量子コンピュータ市場を見るうえで最も重要だと考えているのは、量子コンピュータが「計算資本の次の地平」であるという点です。AI時代にはGPUが計算資本の中心になりました。しかし、化学、材料、暗号、最適化の一部では、GPUをどれだけ増やしても根本的に難しい問題が残ります。量子コンピュータは、その未開拓領域に挑む技術です。
計算資本:計算能力そのものが企業や国家の競争力になるという考え方。AI時代にはGPUが代表例。
未開拓領域:従来の計算手法ではコストや時間が大きすぎ、十分に解けていない問題領域。
GPU:Graphics Processing Unitの略。AI学習やシミュレーションで使われる並列計算用半導体。
一方で、量子コンピュータ市場には大きなリスクもあります。商用化時期の不確実性、技術方式の勝者未定、誤り訂正の難しさ、売上規模の小ささ、過度な期待、専門人材不足、サプライチェーン制約です。したがって、量子コンピュータを「すぐにAIやスーパーコンピュータを置き換える技術」と見るのは危険です。正しくは、長期的に特定問題で計算の限界を変える可能性を持つ、国家戦略型の研究開発市場と見るべきです。
技術方式の勝者未定:超伝導、イオントラップ、中性原子、光量子など、どの方式が大規模実用化に最適かまだ決まっていない状態。
過度な期待:技術の実用化時期や市場規模を実態以上に早く・大きく見積もること。
研究開発市場:製品販売よりも、研究、政府支援、実証、共同開発が中心となる初期段階の市場。
量子コンピュータは、今すぐ巨大収益を生む市場ではなく、計算の限界を変える可能性を持つ「長期の国家戦略技術」である。
今後の勝ち筋は、量子ビット数を競うことだけではありません。高品質な量子ビット、誤り訂正、冷却・制御、クラウド利用、古典計算との統合、実用アルゴリズム、産業パートナーとの検証を一体で進められるかどうかです。量子コンピュータの勝者は、最も大きなプロセッサを作る企業ではなく、最初に「産業上意味のある量子計算」を安定して提供できる企業になると考えています。
産業上意味のある量子計算:研究デモではなく、企業や社会にとってコスト削減、性能向上、新製品開発につながる量子計算。
古典計算との統合:量子コンピュータだけでなく、CPU、GPU、HPC、クラウドと組み合わせて実用計算を行うこと。
産業パートナー:化学、製薬、金融、エネルギー、素材、物流など、量子計算の実課題を持つ企業。
量子コンピュータは、AI、半導体、サイバーセキュリティと密接に結びついています。AIには新しい最適化や生成モデルの可能性を与え、半導体には材料探索の可能性を与え、サイバーにはポスト量子暗号への移行を迫ります。だからこそ、量子コンピュータは単独の計算機市場ではなく、次世代の科学・産業・安全保障を支える基盤技術として捉えるべきです。
生成モデル:データの分布を学習し、新しいデータや候補を生成するAIモデル。
材料探索:電池、半導体、触媒、合金などの新材料を計算や実験で探すこと。
基盤技術:単独製品ではなく、複数産業の土台として広く使われる技術。
参考資料
- MarketsandMarkets, “Quantum Computing Market Size, Share & Trends.” https://www.marketsandmarkets.com/Market-Reports/quantum-computing-market-144888301.html
- McKinsey, “Quantum Technology Monitor 2025.” https://www.mckinsey.com/capabilities/tech-and-ai/our-insights/the-year-of-quantum-from-concept-to-reality-in-2025
- McKinsey, “Quantum Technology Monitor 2025 PDF.” https://www.mckinsey.com/~/media/mckinsey/business%20functions/mckinsey%20digital/our%20insights/the%20year%20of%20quantum%20from%20concept%20to%20reality%20in%202025/quantum-monitor-2025.pdf
- BCG, “The Long-Term Forecast for Quantum Computing Still Looks Bright.” https://www.bcg.com/publications/2024/long-term-forecast-for-quantum-computing-still-looks-bright
- BCG, “Quantum Computing On Track to Create Up to $850 Billion of Economic Value by 2040.” https://www.bcg.com/press/18july2024-quantum-computing-create-up-to-850-billion-of-economic-value-2040
- Grand View Research, “Quantum Computing Market Size & Share Report, 2026-2033.” https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/quantum-computing-market
- IBM, “IBM lays out clear path to fault-tolerant quantum computing.” https://www.ibm.com/quantum/blog/large-scale-ftqc
- IBM, “Development & Innovation Roadmap.” https://www.ibm.com/quantum/assets/IBM_Quantum_Developmen_%26_Innovation_Roadmap_Explainer_2024-Update.pdf
- IBM, “Quantum roadmap.” https://www.ibm.com/quantum/roadmap
- NIST, “Post-Quantum Cryptography.” https://www.nist.gov/pqcrypto
- Microsoft, “Quantum Safe Program.” https://www.microsoft.com/

