スマートフォンで銀行アプリを開き、送金する。しかし私たちは、その資産を守るインフラがどこにあり、誰が管理しているのかについて、ほとんど意識することがない。デジタル資産もまた、アクセスを管理する「秘密鍵」に支えられている。
BitGoは、カストディ(資産保管)をはじめとするデジタル資産インフラをグローバルに提供しており、日本では金融機関や暗号資産取引所にウォレットソリューションを提供している。デジタル資産が広がるにつれて、どのような安全性が必要になるのか。デジタル資産がより広く利用されるようになる中で求められるインフラとセキュリティ管理について、BitGoで日本事業を統括する柳澤力也さん(Head of Japan)に、WebX2026の会場で話を聞いた。
- カストディアンが担う責任と、デジタル資産における「秘密鍵の管理」の位置づけ
- ステーブルコインやトークン化預金が広がるとき、規制の整備だけでは足りない理由
- 利用者が「鍵」を意識せずにデジタル資産を使える世界に、何が必要か
デジタル資産の裏側にある「インフラ」
──一言でいうと、どのような事業ですか。
柳澤 力也 BitGoは、デジタル資産インフラを提供する企業です。金融機関などがデジタル資産を安全に保管・管理するために利用するインフラを、私たちが手がけています。グローバルには、カストディ(資産保管)やウォレット、その他のデジタル資産関連サービスが含まれます。日本国内では、金融機関や取引所などの裏側で、皆さんの資産を守るためのウォレットを提供しています。
──カストディアンとは、どのような役割なのでしょうか。
大まかに言うと、カストディアンとは、顧客の指示や定められた管理体制に従って資産を安全に保管し、そのアクセスを管理する責任を担う存在です。デジタル資産の場合、秘密鍵を安全に管理することが、その責任の中でも特に重要な部分を占めます。
米国では、BitGo Holdings, Inc.の子会社であるBitGo Bank & Trust, National Association(以下「BitGo Bank & Trust」)が、OCC(米国通貨監督庁)認可の全米信託銀行としてカストディを提供しています。信託会社として銀行のライセンスのもとで事業を行っており、投資家およびユーザーの資産保護に関する堅牢な管理体制を特徴としています。
BitGo Bank & Trustのユニークな点として、BitGoが秘密鍵をすべて預かるカストディサービスに対して最大2億5,000万ドルのデジタル資産保険を提供しています。
日本で提供しているセルフカストディ型ウォレットは、BitGoが秘密鍵をすべて預かるサービスではないため、保険の対象にはなりません。
事故が起きれば、業界の時計が止まる
──なぜ、業界の発展に安全性が必要なのでしょうか。
柳澤 力也 業界が発展するためには、事故がなく、安心してアセットを持てる環境が必要です。特に日本では、銀行などの金融機関において、トークン化預金(銀行預金をデジタル上で動かせるようにしたもの)やステーブルコイン(円やドルと同じ価値を保つようにつくられたデジタル通貨)の検討が進んでいます。
万が一どこかで何かが起きてしまうと、もちろん流出自体も問題ですし、合わせて事故を起因として業界の発展が遅れてしまう。そういったことが起きないために、安心安全なインフラを提供し、セキュリティをどう担保するかが一番大切になります。
ステーブルコインとトークン化預金が変えるもの
──デジタル資産が広がると、私たちの生活はどう変わりますか。
柳澤 力也 ステーブルコインやトークン化預金が普及すると、日常の決済から海外への送金や支払いも、今より簡単になる可能性があります。
日本ではすでに、資金決済法のもとで、一部の法定通貨建てステーブルコインが電子決済手段として規制の対象になっています。しかし、普及のためには規制の整備だけでは不十分です。金融機関やサービス提供者には、安全なインフラ、明確な運用基準、そして相互に連携できる仕組みも求められます。
──普及するなかで、新しい課題も出てくるのでしょうか。
デジタル資産が普及すると、それぞれ異なるブロックチェーン上で発行される可能性があります。利用者からすると、同じ円と連動するステーブルコインに見えるのに、使う場所によっては利用できない、ということが起こり得ます。
この分野を知らない人からすると、「同じJPYのステーブルコインなのに、なんで使えないの」となる。異なる発行体のデジタル資産が増えれば増えるほど、その問題は出てくると思います。
デジタル資産を一般に浸透させるには、ユーザー側の理解だけでなく、企業側の準備や規制の整備も必要です。もし各ユーザーが自分でウォレットを利用することが求められる場合は、鍵も自分で管理しなければなりません。そうなると「鍵を紛失しました」「アクセスできません」という問い合わせが、増えることが予想されます。
今の銀行アプリのように、利用者が鍵のことを考えずに使えるようになると、広く浸透しやすいはずです。これから中長期的に金融業界も大きく動きがあるかと思います。
「鍵」を意識しない世界へ
──その先に、どのような未来を思い描いていますか。
柳澤 力也 デジタル資産が、特別なものではなく、金融や生活の中で当たり前に使われる未来を期待しています。
暗号資産と、ステーブルコインやトークン化預金では、ユースケースも普及の仕方も異なると思います。暗号資産については、ETFなどをきっかけに、伝統的な金融機関や機関投資家が段階的に市場へ入ってくると考えています。将来的には、例えば年金基金のポートフォリオの一部にデジタル資産が組み込まれるような世界になれば、非常に面白いと思います。
一方、ステーブルコインやトークン化預金は、決済や送金の効率化など、利用するメリットが比較的わかりやすい領域です。そのため、こちらは私たちの日常生活により直接的な形で広がっていく可能性があります。
最終的には、利用者が「これはブロックチェーンを使っている」「秘密鍵を管理している」と意識することなく、今の銀行アプリや決済サービスと同じように自然にデジタル資産を利用できる。それが一つの理想だと思っています。
BitGoとしては、その未来を実現するために、金融機関や企業が安心してデジタル資産を扱える、安全で信頼性の高いインフラを裏側から支えていきたいと考えています。
それでも「怖い」と感じる人へ
──まだ「怖い」と感じている読者に、伝えたいことはありますか。
柳澤 力也 「怖い」と感じること自体は、決して不自然ではないと思います。暗号資産はまだ新しい領域ですし、ハッキングや大きな価格変動などのニュースを目にする機会も多いからです。
一方で、暗号資産そのもののリスクと、それを管理する仕組みのリスクは分けて考える必要があります。金融機関が参入するための規制やルールは整備されつつあり、資産を安全に保管するカストディ技術やセキュリティも大きく進化しています。
重要なのは、「暗号資産だから危ない」と一括りにするのではなく、誰が、どのような仕組みで資産を管理し、どのようなリスク対策を講じているのかを見ることだと思います。
私たちの役割も、暗号資産を無理に身近なものにすることではなく、金融機関や企業が安心して利用できるインフラをつくることです。そうした基盤が整うことで、暗号資産やデジタル資産が、より信頼できる金融インフラの一部になっていくと考えています。

BitGo(NYSE: BTGO) ── カストディ(資産保管)、ウォレット、ステーキング、取引、ファイナンス、ステーブルコイン、決済・清算サービスなど、デジタル資産に関するインフラを提供する企業。これらのサービスは、規制に準拠したコールドストレージを基盤として提供されている。2013年の創業以来、BitGoは金融システムをデジタル資産経済へと移行させることを目標に事業を展開してきた。現在、BitGoはグローバルに事業を展開しており、米国連邦認可のデジタル資産信託銀行であるBitGo Bank & Trust, National Associationをはじめ、複数の規制下にある事業体を運営している。世界中で数千の機関投資家にサービスを提供しており、業界を代表するブランドや金融機関、取引所、プラットフォームを含む多くの企業、そして数百万人の投資家に利用されている。HP:https://www.bitgo.com
取材:RUNA NAITO/文:Asaka/取材日:2026年7月13日(WebX2026会場にて)


