※本記事は小田玄紀さんのnote記事「日本を「経営」する:GDP1000兆円への再起動計画(④長寿化)」を許諾を得て再掲載したものです。本文は原文のまま、見出しのみ編集部で再構成しています。
出典:https://note.com/genkioda/n/nf49bd6351a93
消費税25兆円を超える社会保険費。財政を圧迫する本当の要因
長寿化政策がなぜ重要か、それは日本財政そして国民の所得負担(結果として日本経済)にも大きく影響をするためです。

これは日本の税収推移です。昨年度は80兆円を超える税収となり、今年度は83兆円超を見込んでいます。この中で最も高い税収は消費税であり、25~26兆円となります。次いで所得税が25兆円程度、法人税が20兆円程度です。

そしてこちらが歳出です。今年度歳出予算は122兆円なので歳入から差し引くと単純計算で40兆円のマイナスとなります。この中で、最も大きな歳出項目が社会保障であり39兆円です。また、別途地方交付金が20兆円あり、後述しますが、こちらも実質的に社会保障負担に回っています。

この表は2025年度の数値なので、先ほどの2026年度予算歳出と若干数値が異なりますが、近似値なので、このままこの表を用いて説明をしていきます。
前述のように、歳出の中で国庫負担としての社会保障費は38~39兆円あります。また、地方公共団体が負担する歳出が17~20兆円程度あります。国家歳出のうち、地方交付金としての費用と実質的に同じ程度の金額が地方公共団体負担として社会保障に回っています。
そして、問題はここからです。税金以外に社会保障費負担として、国民が43.5兆円を負担しており、別途企業が38.8兆円負担しています。昨年度実績で合計82.3兆円です。
昨年度の税収が80兆円でした。最大の税収項目である消費税が25兆円です。これをはるかに超える負担を国民そして企業が社会保障費として負担をしている事実があります。
日本は「税負担が大きい国」だけではなく「社会保険費負担が大きい国」が実態になります。
では、ここで負担している社会保障費がどのように使われているのか。政治家や役人が無駄に使ってるのではないかと思う方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。

上記のように、「年金」「医療」「福祉その他」に使われています。つまり、高齢者や医療・福祉に使われているのが実態です。そして、この「年金」負担は『少子高齢化』という言葉により増大させることが許容されてきており、また、「医療」負担についても年々増加しています。
「年金」や「医療・福祉」を削減することは「社会的弱者の切り捨てだ!」という批判がされてしまい、これまでは削減することが不適切とされてきました。これも『少子高齢化』という言葉が与える影響が大きくなります。
しかし、「年金」も「医療」もその歳出削減は可能です。そして、それは「社会的弱者の切り捨て」というトレードオフを伴わないで実現可能です。ここに「長寿化政策」の神髄があります。
75歳以上が医療費の43% 健康寿命を延ばせば財政も変わる
これまで説明してきたように、社会保障負担の考え方は、「少子高齢化」というマジックワードにより、手厚くすることが正とされました。そして、これを削減することは「社会的弱者の切り捨て」として批判されてきました。
しかし、社会的弱者を生まず、社会保障費を抑制する方法はあります。まず、「医療費」の観点から考えていきます。

こちらは医療費を年齢別で分析した資料になります。75歳以上の医療費が医療費全体の43%となっています。ある意味、これは順当な結果であり、平均寿命から健康寿命を差し引いた年齢、つまり、「健康でなくなった人が医療費を多く使う」ということは自明です。

また、これは疾病別の医療費負担割合ですが、傾向として重病になると医療費負担が多くなっていることが分かります。
以上の点から、医療費抑制のために大事なことは2つです。1つが「健康寿命を延ばすこと」、また、もう1つが「早期治療に取り組むこと」の2点です。
仮に健康寿命が3~5年延びれば、医療費負担は5~8兆円程度抑制できる可能性があります。また、早期の病気発見を行うことで、2~3兆円程度の医療費抑制に繋がる可能性があります。
いずれも、誰も不幸にならない話です。個人としても健康状態が続き、国家としても財政支出を抑制することが出来る。それぞれにとってメリットがある話になります。
健康寿命を延ばすための取組みは様々な科学的アプローチが重要になります。近年は老化のメカニズムについて、だいぶ研究が進んでおり、老化を完全に止めることは出来ませんが、老化の進行を遅らせることは科学的に可能になっています。
老化はミトコンドリアの生成が低下することで進行することが明らかになりつつありますが、このミトコンドリアの生成を維持させるための研究が様々進んでいます。
サプリメントや薬、また、運動などを含めて「老化を科学する」アプローチは世界中で進んでいます。改めて、厚生労働省を中心とした日本政府で老化対策を掲げ、適切な方法を訴求していくことが重要になってきます。
病気の早期発見は健康診断・人間ドッグが重要です。日本人の20歳以上の健康診断・人間ドッグ受診率は64~73%程度と低くはない数値ですが、それでも30~40%の人は受診をしていません。
健康診断・人間ドッグは半日~1日かかってしまうため、なかなかその時間が取れないという人もいるかもしれませんが、これも最近の健診手法は高度化されているので、たとえば採血やMRI/CTなどのみのクイック健診を導入し、「15分でクイック健診完了」のようなスキームを構築できれば、それこそ休み時間に気軽に健診にいける環境も作ることができます。
1)血液検査の高精度化 2)画像診断機器の簡易化/高精度化 3)老化対策(長寿化)の科学的研究強化
この3つを特に強化することで、国民の健康状態を改善し、健康寿命を延ばし、結果的に医療費抑制も実現することが出来ます。国民・国家双方にとって意義のある施策になります。
「70歳まで働かせる」ではなく「70歳でも働けるように」1400万人の眠れる労働力
さらに、健康寿命が延びることで「年金」構造にも変化が期待できます。これまで、労働者人口は15~64歳の人口とされてきました。確かに日本では高齢化は進んでいます。ただ、日本の高齢化は悪い意味での高齢化では無く、良い意味での長寿化です。ただ平均寿命が延びているだけでなく、健康寿命が延びているという事実に向き合う必要があります。
昔の65歳と今の65歳は肉体的にも精神的にも大きな変化があります。以前に比べて、65歳でも50歳程度に見える方は多くいるのではないでしょうか。
仮に労働者人口を65歳から70歳にまで引き上げた場合、日本の労働者人口は1000万人増えます。さらに、この定義を健康寿命の73歳にまで引き上げた場合、日本の労働者人口は1400万人増えます。
労働者人口の割合は全人口に対して70歳まで引き上げた場合は約68%、73歳にまで引き上げた場合は約71%にまでなります。

つまり、この絵のようにはならないのです。10分の7が全体を支える、つまり7人の労働人口が3人の高齢者を支えるという絵になります。

このように、実際に即したイメージに置き換わると、『少子高齢化』という言葉の持つイメージが変わってきます。「高齢化」は悪いことではなく、「長寿化」です。健康寿命が増える長寿化は、まさに多くの人類にとって理想とされるものです。
日本は世界で最も長寿化に成功している国なのです。この事実を認め、さらにこの価値を高めていくことが出来れば、これは大きな資産になります。
「長寿化」をキーワードにした医療の提供、食品やサプリメントの提供、観光産業への導入など新しい産業の創出も期待できます。
さらに、現在の「年金」制度も大きく変わってきます。現在の社会保障給付の最大の支出項目は年金で62兆円となっています。段階的に年金支給時期の引き上げを行っていますが、定年年齢の見直しを含めた働き方の改革を行っていく必要があります。
ここで活躍するのが先回のNoteで紹介した生成AIです。生成AIの導入により、労働生産性は劇的に改善されます。働き方も従来の1日8時間から大きく変わる可能性もあります。極論、1日1~2時間でも従来と同じ生産性を出すことが出来るかもしれないですし、同じ労働時間でも労働負荷を下げることが実現します。
「70歳になっても働かなくてはいけない社会」なのではなく、「70歳になっても働くことができる社会」は実現できます。これを、政府だけでなく、地方自治体そして企業が一体となって考えていくことが重要です。
再び、冒頭の絵に戻ります。コップの水は多いのか、少ないのか。

私は、コップの水は多いと思います。そして、多くの人がこの絵を見ると多いと思うのではないでしょうか?
大衆心理として、楽観的な人を言う人よりもリスクを指摘する人、慎重な意見を言う人の方が賢く見えてしまうという傾向は事実としてあります。しかし、それこそが私が今回の一連の考察で指摘をしている『管理部的発想』なのです。

日本経済が成長できなかった本質的原因を一言で言うと、「日本を経営してこなかった」からです。管理部的な発想で「運営」はされてきました。しかし、経営目線で「国家経営」がされてこなかったことが最大の課題です。
管理部的発想では、限られたパイの中かが税収を確保しようとし、増税という選択肢をとってしまいます。その結果として、日本から多くの産業が国外に流出しました。

その結果として、「日本だけが成長できなかった」という事実が残りました。アメリカや中国がすごいのではなく、世界経済がこの30年間で3.75倍に成長する中で、日本だけが経済成長できていないのです(米国、ロシア、西欧、その他のGDP比率はほとんど変わっていません。日本だけが減っています)。

繰り返しになりますが、日本企業は頑張っています。日本ではなく海外で事業活動を行い、非常に大きな成果を出しています。このことがあり、日本は全体としては経常収支が黒字となっています。
先回も述べましたが、第一次所得収支、つまり、海外での事業活動による収益が大きく成果を出しているのです。
再び、日本に成長産業を誘致し、国内で産業開発を行い、世界一の長寿国家である日本の強みを活かして眠れる1400万人の労働力を加えて8750万人の教育された労働力を有している国は可能性しかありません。
さらに、コップの水を増やす方法も実はあるのです。「少子高齢化」という言葉について、「高齢化」は実は「長寿化」により解決できることを説明してきました。「少子化」も解決可能なのです。
10年間あれば少子化は解決できます。これは精神的な話ではなく、実際の定量的な結果として解決することが可能です。ただ、この解決策は一部倫理的な問題と向き合う必要があります。そのため、今、この時点で公に述べることは敢えて控えます。
岸田政権において、「異次元の少子化対策」をすることが表明された際に、この解決策を関係者に共有したことがあります。想定していた通りでしたが、『今はまだその時ではない』としてこの方法は検討見送りとなりました。
その判断を私は否定する気もなく、そのような判断になることを想定していましたし、また、私自身もまだその時ではないと思っています。ただ、もし本当に少子化問題がより深刻になり、『種の存続』という観点から「異次元の少子化対策」が求められるステージになったら、この施策を導入することで少子化対策は実現できます。
言いたいことは、「コップの水はいっぱいある」ということです。『少子高齢化』という言葉で、将来の不安を想起してしまい、その結果として社会保障費は日本の最大の支出項目となっています。
改めて、正確に現状を整理して、日本がどのような社会になっているのかを再度イメージしなおすことが重要です。そして、事実として「世界一の長寿国」である日本が、この強みを再認識し、この強みを起点とする政策強化をしていくことが、何よりも大事なことだと思います。
これまで4回に渡り、日本経済・財政再生のための考え方を考察してきました。本日までで3つの重要政策を説明しました。次回は「金融政策」について考察をしていきます。
改めて、これまでのNoteと今回のNoteを読んで頂くと、日本の可能性を再認識して頂けるのではないでしょうか。
①エネルギー政策 ②半導体・生成AIなど最先端産業 ③長寿化政策
この3つだけでも日本経済・財政は再生可能です。そして、日本のもう1つの強みが実は「金融」です。適切な「金融政策」が加わることで、長寿化社会はさらに安定したものになりますし、エネルギー政策や最先端産業も金融基盤があることで、さらに大きく成長することができます。
不定期になりますが、次回の更新までお待ちください。
2026年5月23日 小田玄紀


