※本記事は小田玄紀さんのnote記事「日本を「経営」する:GDP1000兆円への再起動計画(②エネルギー)」を許諾を得て再掲載したものです。本文は原文のまま、見出しのみ編集部で再構成しています。
出典:https://note.com/genkioda/n/n63cf82a628cb
再エネに「良い面・悪い面」がある現実
少しここで再生可能エネルギーについて、その考察をしておきたいと思います。再エネ賦課金は現在4.18円/kWhと電気代の15%近い上昇要因となっており、年間総額として3.2兆円近い需要家負担となっていることは事実です。電気料金の引き下げや国民生活負担の緩和を考えた場合、再エネ賦課金の廃止という政策は選択肢の1つとなりやすいことは事実です。
他方で、太陽光を中心とした再エネが日本のエネルギー市場においてマイナスな側面しかないかというと、違った側面も見えてきます。
私は以前に電力小売事業を創業し、経営していました。その際に、日々の日課としてJEPX(日本電力卸市場)のチャートを見ていました。10年近く毎日このチャートを見ていたので、この10年間での日本の電力市場の変化を肌で感じています。
下の表は2010年8月のある日のJEPXの市場価格のチャートになります。再エネが普及する前は、日中の電気代が最も高くなっていました。これは電力需要が最も日中に高くなり、それを支える電源が当時はなく、電力需要に対する供給が無いために需要のピークに電気代が上がる傾向が一般的でした。

下の表は2023年のある日のJEPXの市場価格のチャートになります。再エネが普及した後は、逆にこのように日中の電気代が安くなる傾向が一般的になってきました。つまり日中は太陽光が発電をするので、需要よりも供給が増えます。そのため、電気のピークカットに貢献をしているという事実があります。

事実、「日中は電気が余る」という現象が起きている地域も多くあり、太陽光発電が多く建設された九州電力管内は家庭用電気料金も東京電力管内に比べて3~4円/kWh程度安いということもなっています。
日によっては日中のJEPX価格が0円/kWh近くなるということもあり、再エネ賦課金の4.18円/kWhよりも圧倒的に大きな恩恵が時間帯によってはあるのです。
この1~2年間は不適切な再エネ事業者による環境破壊に繋がる開発実態の報道などもあり、再エネに対しては否定的な報道もされたこともあり、再エネに対してネガティブな見解が醸成されつつありますが、何事も良い面と悪い面がありますので、バランスをとった評価が必要となります。
8年関わって見えたペロブスカイトの可能性と壁
なお、再エネの文脈のついでにペロブスカイト発電についても触れておきます。私自身、ペロブスカイトには8年程関わっており、今後これが実用化フェーズにまで来たことを非常に嬉しく感じています。

2011年に太陽光発電が普及し始めた時には当時の太陽光発電パネルのエネルギー変換効率は17~18%程度だったので、現在のペロブスカイト発電のエネルギー変換効率は非常に高く、また、原材料のヨウ素がチリに次いで日本が第2の生産国であるため、国産エネルギーとして非常に注目がされています。
ただ、だからといってペロブスカイトがすぐに普及できるかというと、そうではありません。ペロブスカイトを普及させるためには大きく2つの課題があります。
1つが『水に弱い』ということです。屋外設置発電設備としてはかなり致命的なのですが、ペロブスカイトは水に弱いのです。そのため、中国ではガラス型といってガラスコーティングされたペロブスカイトが主流になっています。ただ、本来はペロブスカイトはフィルム型で壁や耐久容量が低い天井などに設置出来ることに最大の価値があります。現在、耐水性を高める開発は進められていますが、本質的にはこの耐水性強化が普及のために重要な点となります。
また、もう1つは『コストが高い』という点です。上の表に記載がありますが、最終的には発電コストは6~7円/kWh程度になるという試算もあります。先に説明した発電コストを鑑みた場合、このコスト水準になれば理想的な発電設備となります。ただ、現状では100円/kWhを超えるという試算もあります。なので、今のコスト構造でペロブスカイトを普及させようとした場合には、再エネ賦課金の高騰を招くことに繋がる可能性もあるため、一定の市場規模が形成されるまでは工場への生産補助または税制優遇などの措置が必要になります。少なくても9~15円/kWh以下のコストになるまでは市場拡大のための政策支援がセットで必要になります。
燃料調整費とは?電気代をわかりにくくしている制度の正体
先に電気代の構成のところで燃料調整費という項目も紹介しました。この燃料調整費も電気代に与える影響が極めて大きい要因です。そして、まさにこの燃料調整費制度こそ、抜本的にその制度設計を見直すべき対象ではないかと考えています。

この表は過去2カ年の燃料調整費の推移となります。東京電力管内では過去2カ年で3~5円/kWhと再エネ賦課金に近い金額となっています。なお、直近のエネルギー価格の高騰を抑制するために2026年2月までは4.5円/kWh、3月は1.5円/kWhの政府補助金がかかっていたため、実際にはこの燃料調整費はより高い金額となっています。
また、おそらく現在の電気料金の請求書を見ると燃料調整費はマイナス燃調として電気料金を差し引く金額に表示されていると思います。これは2023年6月の電気料金高騰の際に燃料調整費算定の基準価格が44,200klから86,100klに引き上げられており、それを基準に請求書における燃料調整費は計算されているためです。基準値が上がった分は基本料金に反映されているため、電気料金としては上がっているのですが、燃料調整費の請求勘定としてはマイナスになっているだけであり、このあたりも電気料金のkWh単価が分かりにくくなっている要因です。

燃料調整費とは何かというと、上の表のような算定で行われます。原油・LNG・石炭の市場価格を基に算出され、これを各地域電力会社の電源調達割合に応じて3ヶ月平均で算出されます。
この点が電気料金の計算式をさらに複雑にしており、また、電力会社も市場価格と実際の調達価格に乖離が出るなどした場合に、実態と開きが生じてしまい、電力会社の収益にも影響をしてしまいます。

たまに、電力会社の利益は黒字でも電気料金を値上げする報道がされますが、これはまさに燃料調整費制度の弊害です。
私が新電力を立ち上げた際に、まさに経営のボトルネックになったのはこの燃料調整費でした。当時はJEPXなどの市場や相対電源等を調達し、そのコストに自社のコストと期待利益を乗せて顧客に対する電気料金を設定していました。しかし、それぞれの電力会社管内で燃料調整費が勝手に決まってしまい、さらにこれが売上の20~40%近い価格で前後するために大きく収益に影響を与えました。本来は黒字になるはずのところが赤字になってしまうということもあり、構造的な課題を認識しました。
そこで、当時、独自燃料調整費という制度を導入しました。これは燃料調整費の概念としては、燃料調達原価に見合った損益を基準価格との増減で調整するというものであるため、実際に調達した電源構成に応じて、基準値を設定して、その基準値よりも高いか低いかによって自社で独自の燃料調整費を設定するというものです。燃料調整費の計算式は電力約款に示し、予め顧客に通知をして同意を得ることにしました。
今でこそ、この独自燃料調整費という制度は当たり前にほぼ全ての新電力が導入している仕組みですが、10年ほど前に制度を導入しようとした時はほぼ全ての代理店・社員から反対をされました。それほど、電力業界では「燃料調整費を見直すということは御法度」とされていたのです。
ただ、これは今の時代に電源や調達方法も多様化しており、また、燃料調整費自体が電力価格に与える影響が極めて大きいため、改めて制度自体を見直し、実際の電力会社がかかった調達価格に基準価格との増減で算定するという形式に改めるべきだと思いますし、これが需要家にとっても電力会社にとっても電力料金の構造を理解しやすいものになると考えています。


