DEEPPOINT

「後継ぎ」がディープテックをやる理由

加藤軽金属工業 代表取締役社長・加藤大輝氏へのインタビュー。債務超過の家業を立て直した3代目が、成熟したアルミ産業を破るために量子ドットの会社を引き継ぎ、中小企業がディープテックを育てるという組み方を語る。

「後継ぎ」がディープテックをやる理由

「全然立て直せないレベルの真っ赤っかで」。人材サービス会社で中小企業の再建を支援していた加藤大輝さんの前に、ある日、支援先の候補として実家の会社が上がってきた。愛知県蟹江町でアルミの押出形材をつくる加藤軽金属工業だ。2020年に家業へ戻り、債務超過を返し終えた3代目はいま、量子ドットの会社を引き継ぎ、アルミとディープテックをつなごうとしている。

後継ぎがディープテックをやる理由を、DEEPPOINT開発責任者の伊藤匡平が聞いた。

この記事でわかること
  • 債務超過の家業を、3年目に黒字へ戻すまで
  • 成熟したアルミを、量子ドットなどの新しい技術と組み合わせる取り組み
  • 中小企業が育て、大企業が広めるというディープテックの進め方

真っ赤な家業に、人材紹介の現場から戻る

伊藤 匡平

加藤さんは家業を継がれたんですよね。

加藤 大輝/加藤軽金属工業

はい。家業を継いで、私で3代目になります。

もともとは何社か経ていて、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)の「i-common」という部署にいました。専門家人材の紹介をしながら、企業の経営支援や新規事業の立ち上げを手伝っていたんです。そのなかで、銀行さんと一緒に中小企業の立て直し支援を始めたら、うちの会社が候補に上がってきてしまって。見てみたら、全然立て直せないレベルの真っ赤っかでした。それで戻ったのが2020年です。

伊藤 匡平

インテリジェンスといえば一流企業ですね。そこを離れて家業を継ぐのは、リスクだと感じませんでしたか?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

いや、スーパーリスクです(笑)。

ただ、事業部長から「ダメだったら戻ってこいよ」と言ってもらえていたので、安心してやれました。最初の2年間は僕も赤字を出してしまったんですけど、3年目から黒字になって、債務超過も返しました。今はようやく、新規事業を自分たちのお金でもやれるようになってきたところです。

1946年創業、50メートルのアルミを押し出す会社

伊藤 匡平

もともとは、どういう会社なのでしょうか?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

窓枠のサッシや車のバンパー、ホワイトボードの下の粉受けのようなものを、アルミで50メートルぐらいピューっと押し出して作るんです。それをぶつ切りにして、加工して、組み立てる。そういうことをやっている会社です。1946年創業です。

用語メモ: アルミの押出
  • 熱して柔らかくしたアルミの塊(ビレット)を、金型の穴から押し出して、同じ断面の長い材料をつくる加工法。押し出したものを「押出形材」と呼ぶ。
  • 断面の形は金型しだいで、サッシの枠のような複雑な形も一度に作れる。加藤軽金属工業は押し出した形材の切断・加工・組み立てまでを手がける。
伊藤 匡平

フィジカルな、素材の技術を持った会社だったんですね。日本はもともとアルミに強いんですよね。

加藤 大輝/加藤軽金属工業

強いです。零戦が速く高く飛べたのも、日本のアルミがあったからなんですよ。

伊藤 匡平

零戦!!アルミと日本には由緒正しい歴史があるんですね。面白いです。

新しい合金が生まれないほど成熟した素材を、ディープテックとつなぐ

伊藤 匡平

そこから今は、ディープテックに寄せていっていらっしゃる?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

そうです。アルミって、もう新しいJIS合金がほとんどできないぐらい成熟しちゃっているんです。

ここを打ち破って、日本のアルミ産業がまたちゃんと利益を出せるようにするには、ディープテックの力を借りて、飛び越えるような技術革新を起こさなきゃいけない。社会とディープテックをつなぐことにも取り組んでいますが、一番の目的は、アルミとディープテックをつなぐことです。

伊藤 匡平

アルミとディープテック、考えてもいませんでした。どういう領域とつながるのでしょう?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

今やっているのは、エネルギーと、もっと細かいミクロ・マイクロの領域です。ミクロの方に行くと、医療でも電気でも、あらゆる領域で使えるんですよ。

アルミは軽いし、熱伝導がいいし、電気特性もまあまあいい。そこを活かしながら新しい技術と組み合わせると、もっと化けていくんです。僕がやっている放熱の塗工もそうで、アルミなら放熱性を10倍くらいにできます。電気の方では、発電素子の課題に使ったり、アルミ自体が発電するように仕向けたりもしています。やりようはいくらでもあるんですよ。

伊藤 匡平

初歩的な質問ですが、電気特性というのは、電気を通しやすいということですか?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

そうです。導電性がいい、電気を通しやすいということです。

伊藤 匡平

なるほど……。

余談ですが、DEEPPOINTの親会社のリミックスポイントは、本業が電力事業なんです。電力事業につながるディープテックとは相性がいいので、そこでもぜひご一緒できたらと思います。

加藤 大輝/加藤軽金属工業

ちょうど、私も最近、あるディープテックの会社を買ったところなんです。

量子ドットの会社を、事業承継のように買う

伊藤 匡平

えっ、会社を買われたんですか?!

加藤 大輝/加藤軽金属工業

はい、M&Aしました。量子ドット(クォンタムドット)と呼ばれる、ものすごく細かい粒子を扱う会社です。

これを使うと、太陽電池の発電効率が、今20%ぐらいのものが35%くらいまで上がるんです。ほぼ2倍ですね。もっときれいに作れば40%になる技術もあります。そこに、アルミが意外と使われるんですよ。電極だったり、フィルム状にするときの材料だったり、受け皿だったり。

用語メモ: 量子ドット
  • 直径数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)ほどの半導体の微粒子。粒の大きさを変えると、吸収したり発したりする光の色(波長)が変わる。
  • ディスプレイの発色に使われているほか、太陽電池の発電効率を高める材料として研究が進んでいる。
伊藤 匡平

M&Aの買い手側までされていたとは.....!!どういう経緯で買収することになったのでしょう?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

知り合いの社長から、私の恩師のような方を改めて紹介してもらったんです。その方が持っていた会社で、ご本人がもう手放してもいいという状態だったので、では引き継がせていただきます、と。

伊藤 匡平

事業承継に近いM&Aなんですね。技術は高いのに、事業としてなかなか伸ばせなかったディープテックの会社はたくさんあると思うんです。加藤軽金属工業のような会社が、その受け皿になれるのかもしれませんね。

中小企業が育て、大企業が広めるという二段階

加藤 大輝/加藤軽金属工業

おっしゃる通りです。後継ぎの話にもつながるんですけど、ディープテックって、完成までの道のりがものすごく長いんですよ。一人では完成できない可能性が高い。だから、誰かがどんどん引き継いでいくことが大事なんです。

それを、ガバナンスがしっかり効いている大企業や、株主がたくさんいる上場企業が、赤字を垂れ流しながら、ライスワークではなくライフワークとして面倒を見られるかというと、僕は見られないと思っています。時間があって、資金にある程度余裕のある会社がそのディープテックの面倒を見て、自社のプロダクトと掛け合わせて世の中に出していく。その方が相性がいい。中小企業の社長は、株主と関係なく意思決定できますから。

伊藤 匡平

ディープテックは大企業と組むもの、というイメージがありました。むしろ、地方の中小企業がオーナーになる方がいいのかもしれませんね。

加藤 大輝/加藤軽金属工業

そうなんです。ただ、ディープテックは爆発的な、革新的な技術だと思っています。それを最後に広げようとするときは、すでに面で事業をやっている大企業の力が絶対に要ります。

でも、大企業がディープテックを育てながら、世の中の役に立つ形まで持っていけるかというと、僕はそうではないと思う。お金もたくさんかかりますし。だから、中小企業が自社のプロダクトにしてPoCを回し、大企業が受け入れやすい形にして持っていく。それを大企業が広める。ディープテックは、この二段階を取らなきゃいけないと思うんです。

伊藤 匡平

挑戦的な技術開発は中小企業が担い、その先の広げるところで大企業の力を借りる、ということですね。

加藤 大輝/加藤軽金属工業

それが、これからやらなきゃいけないことだと思います。僕は前職のときから、それを先んじてやってきました。今は実家の会社で、後継ぎとしてやっている。

資金調達は、持って行き方しだい

伊藤 匡平

今の事業にキャッシュフローがあるからできることだと思いますが、一方で、子会社で資金調達をするようなことも考えていますか?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

持って行き方しだいなんです。さっき話したように、自分たちが大企業の代わりまでやるなら資金調達は要ります。そうでないなら、ある程度は自分たちの中でやれる。

お金がかかる技術なら、私の管轄の中で会社をスピンアウトさせて、調達してもらうことになると思います。そこまで要らないものなら、自分たちの中で、借入の範囲でやってしまう。ディープテックのベンチャーと組む場合は、ベンチャーの側に調達してもらえばいいですし。なんとでもなるんですよ。

伊藤 匡平

ディープテックというと、みんな大型の資金調達を思い浮かべると思うんです。でも、それが最適な場合もあれば、そうでない場合もある。必ずしも大きく調達する必要はないですよね。

壁が何枚もある技術を、ディープテックと呼ぶ

伊藤 匡平

加藤さんにとって、ディープテックとは何でしょう?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

皆さん同じことをおっしゃると思うんですけど、技術革新だと思っています。もう少し言うと、社会実装するまでに何枚も壁がある技術です。

壁がないものなら、ただのテックで、ミドルテックぐらいで終わっちゃう。壁がたくさんあるものが、僕からするとディープテックです。その壁を中小企業と組んで越えるのがいいのか、大企業が本気でやりたいなら大企業と組めばいいのか。やり方はいろいろあると思います。壁を何枚も何枚も乗り越えた先に、ディープテックが社会実装されている世界があるのかな、と。

伊藤 匡平

最後に、加藤軽金属工業として、どんな会社とつながりたいですか?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

金属の領域に進出したいけれど、どう進出したらいいか分からない企業さんと組みたいです。それから、自分たちの技術をどこに持っていったらいいか分からない、と思っているベンチャーさん。そういう人たちを支援したいんです。困っていたら、とりあえず連絡してください。金属で何かやりたい企業さんも、一緒に事業案から考えます。

伊藤 匡平

与える側に徹しているんですね。たとえば少し出資をするような形で、見返りを得なくていいのでしょうか?

加藤 大輝/加藤軽金属工業

我々のような会社は、出資しない方がいいと思っています。将来的には入れてもいいのかもしれませんが、今はまだ資本を汚さない方がいい。

最後の方で上場企業からドンと入れてもらったり、CVCから入れてもらったりする方が絶対にいいんです。うちが適当に資本を入れるのはよくない。入れるなら、企業価値がある程度上がった状態で入れたいですね。うちは、うちのアルミ製品を使ってもらえればそれでいいんです。一緒に事業を作っていければ、それで販路が広がりますから。

僕は、この会社が残ればいいと思っているんです。加藤軽金属工業が。残るのも難しい状況だったので、こういう考え方になったのかもしれませんね。

伊藤 匡平

いや〜徹底的に相手の立場で考え抜いていらっしゃるんですね。なかなかいないようなGiverなタイプで、感動しました。今日はありがとうございました。

金属の領域に進出したい企業や、技術の持って行き先を探しているベンチャーは、加藤軽金属工業のお問い合わせ窓口から連絡できる。

取材・文: 伊藤匡平 / 取材日: 2026年6月

この記事に登場する企業

  • 加藤軽金属工業アルミニウム押出形材の製造・加工を一貫対応で手がける1961年創業の金属加工メーカー。自動車・電子機器・建築向けに、設計から品質管理までを担う。

    素材・化学

伊藤匡平
開発責任者
伊藤匡平

国内外のWeb3企業にてCTOや事業責任者を歴任。予測市場プロジェクトではグローバルハッカソン受賞実績を有し、プロダクト開発、技術戦略、事業推進を横断して担う。DEEPPOINTでは、メディア・コミュニティ・データ基盤を支えるプロダクト設計、技術開発、事業実装を推進する。