※本記事は小田玄紀さんのnote記事「日本を「経営」する:GDP1000兆円への再起動計画(②エネルギー)」を許諾を得て再掲載したものです。本文は原文のまま、見出しのみ編集部で再構成しています。
出典:https://note.com/genkioda/n/n63cf82a628cb
小田玄紀です
先日より、日本経済・財政の再生に向けた提言を整理しています。
初回は骨子として大きく3つ+1つが重要だということを書きました。
①エネルギー分野 ②半導体・生成AIなど最先端産業 ③長寿化
そして、これらを支えるための金融政策の抜本的強化です。
今回は『エネルギー分野』について考察していきます。
エネルギーは個人にとっても企業にとっても日常的に使うものであり、全ての生活・産業にとって必要不可欠なものです。ただ、それでいて多くの人がエネルギー、特に電気のことを正しく理解できていないということも事実です。
一言でエネルギーといっても多くの分野にまたがります。その意味でも「エネルギーの専門家」という人はたくさんいますが、多くの専門家はエネルギーの特定の分野、たとえば、再エネとか資源とか発電とかには非常に詳しくても、エネルギー市場全体について広く知見を有している人はあまり多くありません。
私自身、それぞれの分野における専門家には知識の面で劣りますが、電力小売、再エネ発電、火力発電、ペロブスカイト、需給管理・需給調整、電力先物、系統用蓄電池、省エネ(BEMS/HEMS)、核融合などを自身でゼロから事業立上げ・経営・投資などで関わってきたため、エネルギー市場については薄く広くではありますが、一定の知見を有しています。その立場から、エネルギー(特に電気)の市場の課題と取るべき施策について考察をしてみます。
エネルギー市場から見た日本の現在地
まず、日本のエネルギー問題を市場全体の観点で考えていきます。
日本のエネルギー自給率は10~15%程度となります。以下の表は少し古い表ですが、それでもここ数年で15%を超えたことはありません。現在の日本政府は2040年度までにエネルギー自給率を30~40%台にすることを目標としていますが、これには抜本的な対策が必要となります。

また、このエネルギー自給率の低さに起因しますが、エネルギー調達を海外に依存せざるを得ない状況があること、また、ロシア・ウクライナ危機を発端とする原油価格の高騰および円安傾向により現在は毎年30兆円近いエネルギー赤字が発生しています。

なお、これは折に触れて今後も紹介をしていく事項になりますが、日本の経常収支は過去数年で黒字が続いています。貿易収支は4兆円近い赤字ですが、ここにこの30兆円規模の赤字が含まれています。

つまり、ポジティブに考えたらエネルギー赤字が10兆円程度でも解消できれば、日本の貿易収支は5兆円規模の黒字になる可能性があります。現在は30兆円近いエネルギー赤字があっても経常収支としては30兆円の黒字になっています。そのため、決して日本を悲観視する必要はないのです。
また、エネルギー需要についてはこの数年で国全体としての計画を大きく見直す必要が出てきました。

数年前までは、「電気は余る」ということがエネルギー業界の常識となっていました。日本では人口が減少し、また、省エネ化が進むことで、電力需要は減っていくということが少なくとも2010年代では常識として考えられてきました。
そのため、発電設備については大規模な新規開発については消極的であり、古くなった施設を入れ替えることやSDGsの流れもあり環境性能が良いものに切替えていくということが2010年代は正しいこととされました。
しかし、世界全体で大きく価値観が変わりました。様々な製品の電化が進み、また、半導体産業や生成AIなど最先端産業は大きく電力消費をする産業になりました。このことから、「電気は余る」から「電気は足りない」という大きなパラダイム転換が行われるようになりました。
昨年2月に成立した第7次エネルギー基本計画では2040年度の電力需要は1.1~1.2兆kWhとされました。元々は2019年度の9273億kWhから2030年度8640億kWhへ下がるとされていたので正反対の方向に舵が切られたことになります。減らす方針だったものを10~20%近く増やす必要が出てきたのに加えて、エネルギー自給率自体を増やす必要がある訳です。まさに、ここは叡智を結集して取組みをしていく必要があります。
また、エネルギーは全ての産業に必要不可欠なものになります。私は3年前に半導体事業の日本への誘致に携わっていましたが、この際にもエネルギーの必要性を痛感しました。
台湾の半導体工場を誘致することを発表した際に37の地方自治体から誘致のオファーを頂きました。多くの自治体の知事・副知事および産業誘致担当部署と深い協議を行いましたが、電気や水などインフラの関係で大規模な半導体事業を短期間で検討できる場所は5つ程度しかありませんでした。
電気をはじめとしたインフラが整わないために最先端産業を日本へ誘致できないことは大きな逸失利益に繋がります。電気が全ての産業基盤の前提となるため、産業開発という観点、国防・レジリエンスという観点、貿易赤字の改善(財務面)という観点でも最重要事項となります。
「1kWhいくら?」を答えられる人が少ない理由
また、別の観点からもエネルギー問題を考えてみたいと思います。エネルギー問題、特に電気の課題の1つは、「自分の電気料金がいくらなのかよく分からない」という問題です。
ガソリンの場合は、ガソリンスタンドに1リットルあたりの価格が表示されているので、高いか安いかが可視的に分かります。ただ、節約を心がけている主婦の方でも、自分の電気代が1kWhあたりいくらなのかということをよく分かっている人はそこまで多くありません。毎月の電気代を請求書で知り、「先月は多く使ったから上がったのかもしれない」と思うことはあっても、1kWhあたりの価格を正確に理解している人は多くはいません。
これは何故かというと、電気代の算定が一見すると難しくなっているためです。電気料金は一般的には「基本料金」と「従量料金」からなります。「基本料金」は電気容量に対してかかるものであり、過去1年間で最も使った容量を基準に設定されます。そして、その「基本料金」に加えて「従量料金」というものが加算されます。
この説明を読んだだけでも、多くの人は意味が分からず、理解することを諦めてしまうと思います。そして、ここにさらに「再エネ賦課金」が加算され、また、「燃料調整費」が加算・減算されます。
この段階でほぼ正確な把握を大抵の人はすることが出来なくなります。事実だけいうと、2010年は家庭用電気は18円/kWh程度でしたが、現在は32~36円/kWh程度となっています。

上の表が電気代の主な構成となっています。電源調達費用が最も大きな構成となっていて、変動はありますが9~15円/kWhが現在の平均価格となります。
次いで、電気を送る費用である託送料がかかり(電線などを使う費用)、そこから電力需給管理費用や諸々の経費がかかり、また、ここに再エネ賦課金として現在は4.18円/kWhおよび燃料調整費がかかります。
再エネ賦課金は一般家庭の電気料金が32~36円/kWhであることを鑑みた場合、15%近い上昇要因となっていることが分かります。なお、後でも説明をしますが、だからといって再エネが問題かというと、そうではない側面も見えてきますので、この点は安直な結論に導くことは控えた方がいいと思います。
まず、ここで抑えておくべきことは現在の家庭用電気は平均して32~36円/kWh程度であるという事実であり、今後、日本国内でエネルギー自給率を高めるにあたり9~15円/kWh以内で発電コストを抑えていくことが重要(できれば8~10円/kWh以内)ということです。


