オリーブオイルやアマニ油が並ぶスーパーの棚。その横に、藻からつくった油が当たり前に置かれている。株式会社ファイトリピッド・テクノロジーズが見据えるのは、そんな風景だ。排ガスや排熱を資源に、藻類から食用油・バイオ燃料、オメガ3脂肪酸までをつくり出す。マーケティングを担う唐杉さんに話を聞いた。
排ガス・排熱を、藻の力で油に変える
まず、事業の概要を簡単に教えてください。
東京科学大学認定ベンチャー(T128)で、同大で植物や藻類を用いた有用脂質生産の研究に従事してきた代表の太田が立ち上げました。核になるのは、油脂高生産藻ナンノクロロプシスを使ったソリューションです。どんなものかというと、食用油脂やバイオ燃料の原料になる油脂成分(トリアシルグリセロール)を貯める力が非常に強いものなんです。それだけじゃなくて、オメガ3脂肪酸を蓄える力もあり、残渣はタンパク質として利用できるという特徴があります。連携先の企業から排ガスや排熱、排液をいただいて、それらを資源に工場で生産し、出てくる食用油やバイオ燃料、オメガ3脂肪酸、タンパク質の原料を、一次加工品として各社さんに提供していく。そういうことをやろうとしている会社です。
オリーブオイルの隣に並ぶ、藻由来のサステナブル油
具体的なユースケースは。
まさにいま、ユースケースを作りに行っているところです。食用油脂に関しては、国内トップクラスの食用油メーカーさんと共同研究をしています。彼らは今、菜種や大豆から油を搾っていますが、そもそもほぼ輸入に頼っていて、安定して入ってこないし、価格も安定しない。昨今はバイオ燃料のほうでも需要が高まっているので、なおさら入りにくくなっている。そんな中で、国内で安定的に生産できる食用油の代替物を求めているんです。イメージとしては、オリーブオイルやアマニ油みたいな高付加価値な製品の横に、我々の藻類由来のサステナブルな油が並べられるような、そういう世の中も考えられる。スーパーの棚に並ぶものを作りたい。価格は、基本的に同じ価格まで下げるというのが一番難しいところで、そこを目指しています。安くなるわけではなくて、どちらかというと、サステナブルなことに価値を感じてくれる消費者の方が受け入れやすい価格で提供する、ということですね。生産設備を1ヘクタールまでスケールアップできれば、オメガ3脂肪酸でキロ数万円、タンパク質で数百円と、一次加工品として上市可能なレベルまで下げられると考えています。
価格を市場水準まで下げるという、最大のハードル
事業への思いを聞かせてください。
この領域では、各製品の価格を市場で受け入れ可能なレベルまで下げられるか、というのが大きなハードルです。でも、我々はできると思っています。ナンノクロロプシスのポテンシャルに独自の培養法、抽出技術、こういったものを組み合わせれば実現できる。その裏付けとなる技術もあります。特定の国や地域、自然資本に頼らない、新たな物質生産システムの構築をまさに我々がやろうとしている。あとは、スケールアップするまで……というところです。
「きれいごとを本気で実現する」ということ
唐杉さんにとって、ディープテックとは?
他の方も言われているかもしれませんが、きれいごとを本気で現実にする、そうすることで世の中の当たり前を変える、常識を変える。そういうことだと思っています。
唐杉慶一 ── 株式会社ファイトリピッド・テクノロジーズ マーケティングマネージャー。(株)カネカで自身が研究開発に携わった製品の上市と新規事業開発を経験、これをきっかけに、これまで複数社でディープテック関連の新規事業開発に従事してきた。4年前から大学発シーズの事業化にも取り組み、ベンチャーキャピタルの客員起業家として複数の大学教員とシーズの事業化プロジェクトを立ち上げ、事業仮説検証、ステークホルダーの巻き込み、補助金による資金獲得等を主導してきた。「藻類による物作りで食用油からバイオ燃料まで様々な有用物質のサステナブルな安定供給に貢献する」という壮大な事業構想に魅力を感じ、2025年12月にファイトリピッド・テクノロジーズ(株)へ入社、事業開発を担当している。
株式会社ファイトリピッド・テクノロジーズ ── 東京科学大学認定ベンチャー(T128)。同大で植物や藻類を用いた有用脂質生産の研究に従事してきた代表取締役CEO・太田啓之(東京科学大学名誉教授)が2021年に設立。油脂高生産藻ナンノクロロプシスを用い、食用油脂・バイオ燃料・オメガ3脂肪酸・タンパク質原料を一次加工品として企業に提供する事業を展開。HP:https://phytolipidtech.co.jp
取材:Keisuke/文:DEEPPOINT編集部/取材日:2026年7月


