呼べば個室が来て、目的地まで止まらない
個室の小型車両を呼ぶと、専用の道を目的地まで一度も止まらずに走る。そんな次世代の公共交通の実用化に向けて、米国のスタートアップと日本の大企業が手を組んでいる。
舞台となったのは、2026年10月5日から7日まで大阪の中之島とうめきたで開かれた「Global Startup EXPO 2026(GSE2026)」だ。経済産業省が大阪府・大阪市の共同提案を採択して開いた、ディープテック領域のスタートアップイベントで、2025年に大阪・関西万博の会場で初めて開催され、今回が2回目となる。バイオ・ヘルスケア、量子、フュージョンエネルギー、宇宙、AI・先端ロボット、半導体・通信の6分野を重点に、国内外のスタートアップや投資家、事業会社が集まり、展示やピッチ、セッションが行われた。
最終日の10月7日、コングレスクエア グラングリーン大阪でユニコーンセッション「Design by Silicon Valley, Made by Japanの次世代新交通システム」が行われた。米Glydways(グライドウェイズ)のアジア太平洋地域プレジデントであるニック・ギブソンさんと、スズキ 次世代事業本部 本部長の藤谷旬生さんが登壇し、合同会社SARRの松田一敬さんがモデレーターを務めた。

<左から、Glydwaysのニック・ギブソンさん、スズキの藤谷旬生さん、合同会社SARRの松田一敬さん>
ロボタクシーでは渋滞は消えない
Glydwaysは2016年に米カリフォルニア州で設立された。小型の自動運転電動車両を専用レーンで走らせる、オンデマンド型の公共交通システムを開発している。

<専用レーンを走るGlydwaysの交通システムのイメージ(出典/Glydways)>
ギブソンさんが強調したのは、既存の道路を走るロボタクシーとの違いだ。ロボタクシーは信号や渋滞、歩行者の飛び出しのたびに止まるため、流れが詰まって大量輸送には向かない。運転手がいなくなっただけで、渋滞の解決にはならないという。一方で、Glydwaysは乗降場を本線の外に設け、本線の車両を止めずに走らせ続ける。この「走りっぱなし」が大量輸送の鍵だと説明した。ロボタクシーとは競合せず、乗降場から先の移動をロボタクシーが担うといった共存を描いている。
会場では、ドバイでの走行映像も紹介された。松田さんは、運賃を日本の地下鉄並みに抑えられる想定だと補足した。
実は松田さん自身も、Glydwaysの立ち上げ当初から関わってきた一人だ。大阪・関西万博に間に合わせようと動いていたが、かなわなかったという。いつか、セッション会場であるグラングリーン大阪からほど近い夢洲で走らせたいと話した。

<合同会社SARR 松田一敬さん>
工場を持たないスタートアップ、量産を担う日本の大企業
松田さんはセッションの冒頭で、問題意識を語った。ソフトウェアの領域では、海外のサービスを日本が使うだけになり、デジタル赤字が膨らんでいる。一方、交通やエネルギーのように物をつくって動かす領域なら、アイデアがどこで生まれても、日本が開発・製造・運用に深く関われるという。
Glydwaysは、もともとソフトウェア企業だ。ギブソンさんは、車両とインフラの設計には関わるが、量産は自社では行わず、工場も持たない方針を示した。

<Glydways アジア太平洋地域プレジデント ニック・ギブソンさん>
これは、半導体業界のファブレスに近い考え方を交通に持ち込んだ形だ。車両はスズキ、インフラは大林組と組む。ENEOSと三井化学も出資している。藤谷さんは、ハードウェアの量産は開発とは別の世界で、大企業が入らなければ実現できないと述べた。
「小少軽短美」と対等なパートナーシップ
1920年創業のスズキは、「小・少・軽・短・美」を理念に掲げる。両社の出会いは2018年。当時のGlydwaysは模型を走らせている段階だった。それでも藤谷さんは、電車を1両走らせるより、軽自動車サイズの車両を連ねて走らせるほうが資源を使わないという発想に、スズキと通じるものを感じたという。スズキは2024年に出資し、2026年4月には追加出資を発表した。

<スズキ 次世代事業本部 本部長 藤谷旬生さん>
連携がうまくいく理由として挙がったのが「対等さ」だ。松田さんは、オープンイノベーションの多くが担当部署やCVCの関心にとどまり、本業に組み込まれないまま終わると指摘した。藤谷さんは、社内で「スタートアップの社長はスズキと対等」とされていると明かし、技術開発では本気でぶつかり合うこともあると話した。ギブソンさんは、出資に至るまで毎年スズキを訪ねて進捗を報告し続けたと振り返り、粘り強さがなければ大企業とのパートナーシップは組めないと述べた。
空港、半導体工場、そしてインドへ
都市で運用するには、終日走り続けても壊れない車両を大量に生産する必要がある。ギブソンさんは、安全を最優先にした運行制御ソフトに注力していると述べたうえで、それだけの耐久性を持つ車両を量産できる企業は限られると話した。藤谷さんは、利益が見込めるとして大量生産に意欲を示した。車を増やしても渋滞が解消しないインドのような国には、新しいインフラが必要だという。スズキはインドでも、Glydwaysの導入可能性を共同で探っている。
国内についてギブソンさんは、国際空港や、急成長する半導体産業の工場周辺の渋滞対策として関心が寄せられていると明かした。最後に藤谷さんは日本のスタートアップに向けて、成長する国のスケール感を見てグローバルに挑んでほしいと呼びかけた。
関連サイト
- Global Startup EXPO 2026 https://global-startup-expo.com/
- Glydways https://www.glydways.jp/
取材・文・撮影:RUNA NAITO

