法人をつくる前に、人を雇う
海外に拠点を展開するとき、まず現地法人をつくり、それから人を雇う。多くの日本企業がたどるこの順番を逆にして、世界に広がったスタートアップがある。
2026年10月5日から7日まで大阪の中之島とうめきたで開かれた「Global Startup EXPO 2026(GSE2026)」は、経済産業省の公募に大阪府・大阪市が共同で提案し、採択されて開かれたディープテック領域のスタートアップイベントだ。2025年の大阪・関西万博会場での初開催に続く2回目で、バイオ・ヘルスケア、量子、フュージョンエネルギー、宇宙、AI・先端ロボット、半導体・通信の6分野を重点に、国内外のスタートアップや投資家、事業会社が集まった。
最終日の10月7日、コングレスクエア グラングリーン大阪でセッション「世界を変えるチームはどう作るのか~デカコーンスタートアップから学ぶ、グローバル成長組織の実践論~」が行われた。Deel Japan 社長執行役員の西浦亮さんと、京都フュージョニアリングの山本航平さんが登壇し、アルケミストジャパン Managing Directorの眞鍋亮子さんがモデレーターを務めた。
Deelは2019年創業の米国企業で、150か国以上で海外人材の雇用や給与支払いを代行するサービスを提供する。2022年には企業価値が120億ドルに達し、創業3年で「デカコーン」となった。京都フュージョニアリングは京都大学の核融合研究をもとに2019年に設立され、核融合発電プラントに必要な機器やエンジニアリングを手がける。眞鍋さんは、課題が誰の目にも明らかなSaaSと、限られた人にしか担えないディープテックでは勝ち方が逆だとしたうえで、両社の共通点は早くから海外に出たことだと話した。

<Deel Japan 社長執行役員 西浦亮さん>
最初から、舞台は世界だった
西浦さんによると、Deelは国境を越えた雇用を支える事業なので、1か国だけで展開しても意味がない。創業者もフランス出身と中国出身の2人で、最初から多国籍の組織をつくることが前提だったという。
京都フュージョニアリングは創業から約2年後、英国に拠点を構えた。山本さんは、核融合は地球規模の課題であり、社内では「舞台も地球」という考え方だったと説明する。自ら発電事業を担うのではなく、核融合を日本の新しい輸出産業にすることだ。日本企業はもともと優れた作り手で、それらの技術をまとめて海外に届けることが勝ち筋だと話した。
法人設立より先に人材確保
両社に共通していたのは、拠点づくりの順番だ。京都フュージョニアリングはドイツに進出する前に、核融合の燃料サイクル分野で世界的に知られる研究者を先に採用した。そのときに使ったのがDeelのサービスで、現地法人を持たずに人を雇えた。法人をつくるのは、その国の政府調達に応じる必要が出てきたときだという。
西浦さんも、Deelの創業者が同じ考え方だと応じた。必要なポジションに合う人を、国を問わず探して雇う。Deel自体がフルリモートの会社で、場所に縛られて採用するという発想がもともとなかったという。展開の仕方も柔軟で、立ち上げを担うチームが国から国へと渡り歩いてカバレッジを広げ、うまくいった国は拡大し、そうでない国は縮小してきた。
採用の初期に契約社員から始めるべきかという眞鍋さんの問いに、山本さんは、立ち上げ期は技術と人を押さえることが成功の鍵で、迷っている時点でその人は「ライトパーソン(適任)じゃない」と答えた。西浦さんは国によって判断が分かれるとし、有期契約の人に正社員と同じ仕事を任せると法的リスクになる国もあると注意を促した。

<京都フュージョニアリング 山本航平さん>
面倒なことを、先に積み上げる
Deelは創業当初、各国の法律や労務を現地のパートナーに任せることもあった。しかし回答の正確さやスピードに課題があり、各国で専門家を自社で抱える方針に切り替えた。西浦さんは、その手間を多くの国で重ねたことが、他社がまねできない参入障壁になったとみる。いまは国ごとに計算方法が異なる給与計算のエンジンも、自社で開発しているという。
京都フュージョニアリングの山本さんは、創業者から聞いた反省として、組織が固まる前に各国のリーダーに権限を渡しすぎたことを挙げた。ディープテックは輸出管理の対象になる技術も多く、国ごとに丁寧に確認を重ねる必要がある。手間はかかるが、それがノウハウとして蓄積し、法令を守る会社だという信頼にもつながると話した。
日本企業がつまずくポイント
西浦さんは、顧客企業の支援を通じて見えてきた失敗のパターンを挙げた。契約形態の分類を誤ること。現地の最初の1人に、採用から労務、給与計算、事業開発までを任せて辞められてしまうこと。日本の評価制度や就業規則をそのまま持ち込むこと。いずれも現地にノウハウが残らない原因になるという。
山本さんは前職での経験から、本社から送り込まれた駐在員が現地戦略を担う形や、あうんの呼吸に頼るコミュニケーションを課題に挙げた。英語圏では、最初に方針を明確にし、細かくフィードバックを重ねる進め方が好まれることが多いという。

<アルケミストジャパン Managing Director 眞鍋亮子さん>
次に雇う一人から
明日からできることとして、西浦さんは、次に雇う人を外国籍の人にすると決め、そのとき社内のルールや仕組みに不都合がないかを点検してみることを勧めた。最初から多様性のある組織をつくっておかないと、後から海外に開くときに大きな痛みを伴うからだ。
眞鍋さんは、2社の勝ち方はまったく違うが、面倒なことをどれだけ早く、繰り返し積み重ねてきたかという点で共通していると総括した。そのうえで会場に向けて、まずは今日、日本人以外の参加者と話してみてほしいと呼びかけた。
関連サイト
- Global Startup EXPO 2026 https://global-startup-expo.com/
- Deel https://www.deel.com/ja/
- 京都フュージョニアリング https://kyotofusioneering.com/
取材・文・撮影:RUNA NAITO

