服の繊維の多くは、石油を原料にしたポリエステルなどの合成繊維である。 山形県鶴岡市のSpiberは、植物由来の糖を微生物に与えて発酵でタンパク質を作り、それを繊維などの素材にする「Brewed Protein」を開発してきた。 会社は2026年4月に新しい法人へ事業を移して再出発したが、その前後にも、ブランドでの採用の発表が続いている。 この素材は、いま誰に、どう使われているのか。
- 会社によると、80社以上のテキスタイルメーカーと紡績会社がこの繊維で製品を作り、40以上のブランドの200アイテム超に採用された
- 直近1年では、THE NORTH FACEやStella McCartneyの服に使われ、量産車のシートカバーへの採用も決まった
- 会社が挙げる環境負荷などの利点は会社の説明にとどまり、第三者による検証は示されていない
発酵:微生物に糖などを与え、目的の物質を作らせること。
精密発酵:遺伝子を設計した微生物に、狙ったタンパク質などを作らせる発酵。
紡績会社:繊維から糸を作る会社。
テキスタイルメーカー:糸から生地を作る会社。
事業譲渡:会社の事業の全部または一部を、別の会社に引き継ぐこと。
誰が使うのか
Brewed Proteinを使うのは、繊維で製品を作る会社と、その製品を売るブランドである。 会社によると、80社以上のテキスタイルメーカーと紡績会社がこの繊維で製品を作り、40以上のブランドの200アイテム超に採用された。 量産の拠点はタイにあり、工場では主にサトウキビ由来の糖を使っている。 NEDOの記事によると、この素材が初めて一般向けに売られたのは2019年で、数量限定だった。 それから現在までに、採用は40以上のブランドに及んだことになる。
会社はこの素材の利点として、風合いと環境負荷を挙げている。 風合いでは、カシミヤ、ウール、シルクを思わせる特性を持つという。 環境負荷では、カシミヤより繊維製造の段階での温室効果ガスの排出量と水の使用量が少ないとしている。
どう使われているか
直近1年に公表された採用を並べると、使われ方は服から車まで広がっている。
| 発表の時期 | 使い手 | 使われ方 |
|---|---|---|
| 2025年10月 | JNBYグループ(中国) | 中国のブランドの製品として初めて採用 |
| 2025年10月 | トヨタ系ブランドの車両 LAND CRUISER PRADO「NEWSCAPE」 | シートカバーの部分への採用を発表(2026年3月7日に発売) |
| 2025年11月 | Spiber(自社) | 初の自社製品「Spiber Tee 001」を公式LINEアカウントで国内限定販売 |
| 2025年12月 | THE NORTH FACE(ゴールドウイン) | 刺し子コレクションのヌプシ ハンテン ジャケットなど3品 |
| 2025年12月 | A-POC ABLE ISSEY MIYAKE | TYPE-XI Spiberプロジェクトの新作(2026年1月から発売と発表) |
| 2026年3月 | Stella McCartney | Winter 2026コレクション(パリ・ファッションウィークで発表) |
服では、アウトドアのブランドからデザイナーのブランドまで、用途の違う使い手が並ぶ。 自動車では、会社がこれを量産車での初めての採用としている。 自社製品のTシャツは、ブランドに素材を納めるだけでなく、会社が自ら最終製品を売り始めたことを示している。 次の使われ方として、会社はBrewed Proteinを100%使った新しい素材を、2027年秋冬向けの提案としてイタリアの見本市で発表すると2026年6月に公表した。 これはまだ提案の段階で、採用先は公表されていない。
利点の根拠はどこまであるか
会社が挙げる利点は、どれも会社自身の説明である。 カシミヤより温室効果ガスと水が少ないという比較について、第三者による検証は示されていない。 会社は自社の繊維を、ISO規格で定義されたタンパク質繊維のうち、精密発酵で工業規模の生産ができる唯一の繊維とも位置づけているが、これも会社の説明である。
価格については、素材全体の価格も量産のコストも公表されていない。 公表されているのは、ポリエステルに後から加工する仕上げ剤の試作品について、従来のポリエステルに近い価格帯で提供できるとした会社の説明だけである。
まだ分からないこと
量産車のシートカバーは2026年春の発売予定と発表され、販売元のトヨタ・コニック・プロによると2026年3月7日に発売された。 環境負荷の比較を第三者が検証した結果が出れば、利点の根拠が変わる。 2026年4月の事業譲渡の後、新しい法人がどの規模で供給を続けられるかを判断する材料(資本構成や量産のコスト)も、公表されていない。
編集部の見立て
Brewed Proteinは、いまアウトドアやデザイナーのブランドの服で使われ、量産車のシートカバーへの採用も決まっている、と編集部は見る。 一方で、会社が挙げる環境負荷などの利点は会社の説明にとどまり、事業譲渡の後に供給がどの規模で続くかを判断する材料もまだない。 新しい法人の下で採用が続くかどうかが、この素材の使われ方を確かめる次の材料になる。
- 社名:Spiber(2026年4月1日に始動した新生Spiber)
- 設立:2007年9月(旧Spiber)
- 所在地:山形県鶴岡市
- 代表:川名麻耶(代表取締役CEO)
- 分野:素材・化学
- 出身:慶應義塾大学。2004年、研究室の合宿で当時学生だった関山和秀氏と菅原潤一氏が蜘蛛の糸の人工合成を着想し、関山氏が政策・メディア研究科の後期博士課程に在籍中に設立。内閣府ImPACTの助成を受け、2019年に数量限定で一般販売
- 認証:タイの工場で使う糖はBonsucroの認証品。本社とタイの法人はISO 9001とISO 14001の認証(調書の記録)
- 米国:2020年12月の調達では、ADMと進める米国での量産体制づくりに充てるとしていた。2026年4月の事業譲渡ではUS事業が除かれた
- 製品:Brewed Proteinファイバー(量産、販売中)、Spiber Tee 001(2025年11月発売)、Brewed Protein 100%素材(2026年6月に発表)、仕上げ剤と表面材(試作品)
- 調達:DEEPPOINTスタートアップDBの開示分の合算は694億円(いずれも旧Spiberの3件。2020年12月の事業価値証券化250億円、2021年9月の344億円(第三者割当増資244億円と事業価値証券化100億円)、2024年4月の100億円超を100億円で計上)。報道では累計1000億円以上とされている
- 事業譲渡:2026年4月1日、新生Spiberが旧SpiberからUS事業など一部を除く事業を譲り受け、川名麻耶氏が代表取締役CEOに就任。創業者の関山和秀氏と菅原潤一氏は経営の一線を退き、技術面の課題解決と製品化を担当
- 経緯(報道):旧Spiberは2024年12月期に280億円の特別損失を計上し、2025年末までに約360億円の返済期限が迫っていたと報じられた。東京商工リサーチによれば、旧法人は商号を「構造タンパク質事業資産管理」に変え、米国子会社の清算後に特別清算に入る見通し
- 公式サイト:spiber.inc
- スタートアップDB:/startups/spiber
この記事は、DEEPPOINTのスタートアップDBの調書と、同社のリリース、報道などの公開情報をもとに編集部が作成した。 旧Spiberの財務の経緯は報道にもとづく。 サムネイルには同社公式サイトの画面を使った。 主な出典は、同社サイトのBrewed Proteinのページ、同社リリース(新生Spiberの始動、量産車での採用、発売日の決定(トヨタ・コニック・プロ、2026年1月7日)、THE NORTH FACE、A-POC ABLE ISSEY MIYAKE、Stella McCartney、JNBY、Spiber Tee 001、仕上げ剤と表面材、100%素材)、NEDO Web Magazine、Business Insider Japan(2026年3月)、FASHIONSNAP(2026年4月) である。 この記事は投資判断を推奨するものではない。 内容の訂正の依頼はお問い合わせから受け付けている。

