DEEPPOINT

天地人の宇宙水道局は、衛星で水道管の漏れをどう見るのか

衛星で水道管の漏水を調べる方法は1つではない。地表の変化と管路データから漏れやすさを推定する天地人の宇宙水道局と、地中の水濡れを直接とらえるSAR衛星の方式、衛星を使わない劣化予測を並べ、それぞれが何を示し、どの場面で効くのかを整理する。

天地人の宇宙水道局は、衛星で水道管の漏れをどう見るのか

同社のリリースが引く日本水道協会の水道統計(令和5年度)では、日本の水道管の約25.3%にあたる約18.9万kmが、法定耐用年数を超えている。 天地人の「宇宙水道局」は、衛星データを使って、漏水を探す現地調査の範囲を絞るサービスである。 ただ、衛星で漏水を調べる方法はほかにもあり、それぞれ示す情報が違う。 宇宙水道局は、衛星で水道管の何を見ているのか。

この記事でわかること
  • 自治体の課題は、老朽化した管路の中から、限られた人手で調べる場所を選ぶことである
  • 宇宙水道局は漏水そのものではなく、地表の変化と管路データから漏れやすさを5段階で推定する
  • 地中の水濡れをとらえるとするSAR方式や、衛星を使わない劣化予測とは、示す情報が違う
  • 宇宙水道局もSAR方式も範囲を示すところまでで、場所を突き止めるのは現地の音聴調査である
用語解説

法定耐用年数:減価償却のために法令で定められた年数。実際に使える年数(寿命)とは別のもの。

音聴調査:地上や管の上から漏水の音を聞き、漏れている場所を探す調査。

地盤変動:地面がわずかに沈んだり盛り上がったりすること。

メッシュ:地図を一定の大きさの網目に区切った、それぞれの区画。

SAR(合成開口レーダー):衛星から電波を当て、跳ね返りから地表を観測するレーダー。雲がある日や夜でも観測できる。

何を解こうとしているのか

自治体の水道事業者が抱えているのは、どこから調べ、どこから更新するかという選択の問題である。 宇宙水道局を導入した自治体は、職員の減少と管路の老朽化への対応を理由に挙げ、調査範囲の縮小と漏水の的中率の向上を目的に掲げている。 選ぶための材料として、国土交通省は上下水道DX技術カタログに、こうした技術を自治体向けに並べている。 宇宙水道局は、2026年3月の改訂版にも実用段階の技術として載った。

宇宙水道局の方式

宇宙水道局が見ているのは、地表の変化と管路の記録である。 出発点は、衛星から観測される地表面温度や地盤変動などが、漏水のリスクと関係するという知見である。 衛星で捉えた地表のデータに、土壌や地質の情報、水道局が持つ管路の情報と過去の漏水事故の履歴を重ね、AIで解析する。 国土交通省の上下水道DX技術カタログに載った資料では、分析した管路は総延長約12.5万km、学習に使った漏水事故は17万件である。

結果は、約100m四方のメッシュごと、または数メートル単位の管路ごとに、漏水のリスクを5段階で示す。 自治体はこれを、漏水の音を聞いて場所を探す音聴調査の範囲を絞るのに使い、どの管から更新するかの優先順位づけにも使える。 2025年11月には、調べる管路をさらに絞り込む機能も加わった。

宇宙水道局が漏れやすさを推定する流れ。衛星の地表データ、土壌と地質、管路、漏水の履歴を重ねてAIで解析し、5段階のリスクで示す。場所を突き止めるのは現地の音聴調査

ほかの方式は何を見るのか

同じ課題に、別の方式で取り組む事業者がいる。

方式事業者何を示すか示す単位段階、導入
地表の変化と管路データからリスクを推定天地人(宇宙水道局)漏水のリスク(5段階)約100m四方、または管路ごと国の技術カタログに実用段階として掲載、延べ100事業体超(2026年9月、更新を含む)
SAR衛星で地中の水濡れをとらえるASTERRA(イスラエル)衛星がとらえた水濡れの位置(同社の説明)半径100mの範囲国の技術カタログに掲載
SAR衛星のデータを解析リモート・センシング技術センター(mizuiro)資料では確認できなかった10m四方のメッシュ情報なし
衛星を使わずに劣化を予測Fracta管の劣化の状態管ごと国内30事業者(2022年6月末)

ASTERRAは国の技術カタログの資料で、自社の方式を「漏水リスク予測とは異なり」、衛星が実際にとらえた水濡れの位置を提供するものと説明している。 Fractaは、管の種類や布設年度、過去の漏水情報と環境のビッグデータを組み合わせて、管の劣化を予測する。

違いが効く場面と、効かない場面

違いが効くのは、自治体が何を知りたいかである。

漏水を調べる方法の位置づけ。衛星を使い漏れやすさを推定する宇宙水道局、衛星で水濡れをとらえるASTERRA、衛星を使わず劣化を予測するFracta、現地で音を聞く音聴調査

編集部の整理では、ASTERRAの説明どおり水濡れの位置が分かるなら、いま漏れている可能性のある場所を探す用途に向く。 宇宙水道局のリスクの推定は、管路の記録と重ねる分、これから漏れやすい場所や更新の順番を考える用途に向く。

一方で、どちらの方式も場所を突き止めるところまではしない。 宇宙水道局は約100m四方か管路の単位で、ASTERRAは半径100mの範囲で示し、その中のどこで漏れているかを突き止めるのは現地の音聴調査である。

まだ分からないこと

宇宙水道局を導入した自治体で、漏水の的中率がどれだけ上がったかの実測値は、公開資料に見当たらない。 ASTERRAの方式でとらえた水濡れのうち、どれだけが実際の漏水だったかの実測値も確認できなかった。 宇宙水道局が使う衛星の種類(センサー)の内訳も公開資料からは分からず、ほかの方式と同じ条件で比べた結果も確認できなかった。

編集部の見立て

宇宙水道局が衛星で見ているのは、漏水そのものではなく、地表の変化と管路の記録から推し量った漏れやすさだ、と編集部は見る。 水濡れの位置をとらえるとする方式とは示す情報が違い、どちらを使うかは、自治体が何を知りたいかで決まる。 導入した自治体の実測値が公開されれば、方式を選ぶ材料が1つ増える。

会社のデータ
  • 社名:株式会社天地人
  • 設立:2019年
  • 所在地:東京都中央区
  • 代表:櫻庭康人(代表取締役)
  • 分野:宇宙
  • 出身:JAXA。2018年11月の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2018」を起点に法人化し、JAXAの知的財産と業務の知見を使う「JAXAベンチャー」に認定。共同創業者の百束泰俊氏は2004年にJAXAに入り、GPM主衛星といぶき2号の開発を担った。2022年12月にJAXAが出資(JAXAとして初めての出資案件)
  • 導入:2023年4月に提供開始。2026年9月に延べ導入事業体数が100を超え(契約更新を含む)、同月に大分県内の16の水道事業者が共同で導入
  • 製品:宇宙水道局(販売中、延べ100事業体超)、宇宙水道局 クラウド(無償版、令和9年度に提供予定)、下水道向けの損傷リスク診断(共同研究中)、Tenchijin EO Market(2026年6月に提供開始)
  • 調達:DEEPPOINTスタートアップDBの開示分の合算は10.5億円(5件のうち金額の分かる3件。2024年1月のシリーズA2.5億円、2025年のシリーズB7億円とエクステンション1億円)。会社が公表する累計は約19億円で、融資を含む
  • 企業価値:INITIALの推定値(調達後評価額、2025年11月時点)では約46億円。会社や投資家の公表値ではない
  • 公式サイト:tenchijin.co.jp
  • スタートアップDB:/startups/tenchijin
この記事について

この記事は、DEEPPOINTのスタートアップDBの調書と、同社のリリース、国の資料などの公開情報をもとに編集部が作成した。 企業価値の推定値は INITIAL(initial.inc)による。 サムネイルには同社公式サイトの画面を使った。 同社の海外事業の体制は、DEEPPOINTのディープテック転職をめぐるイベントレポートで担当者が話している。 主な出典は、国土交通省 上下水道DX技術カタログの天地人の資料とASTERRAの資料、同社リリース(JAXAベンチャー認定、2025年12月の調達、延べ100事業体、大分県での共同導入、導入自治体の目的)、THE BRIDGE(2025年7月)、mizuiro に関する記事、Fracta のリリース である。 この記事は投資判断を推奨するものではない。 内容の訂正の依頼はお問い合わせから受け付けている。

この記事に登場する企業

  • 天地人衛星データとAI解析で水道インフラの漏水リスクなどを可視化するJAXA発ベンチャー。

    宇宙·シリーズB·累計¥10.5億·JAXA発·JAXA·DBJ ほか11社

DEEPPOINT編集部
編集部
DEEPPOINT編集部

DEEPPOINT編集部が制作した記事です。ディープテック各分野の市場解説から、暗号資産・証券・DATなど投資関連サービスの比較・解説まで、編集部の調査に基づいてお届けします。