※本記事は茶谷公之さんのnote記事を許諾を得て再掲載したものです。本文は原文のまま、見出し・サムネイル画像のみ編集部で再構成しています。「第1章:想像力と妄想力〜不連続な時代を生き抜く鍵〜」より、「想像力・妄想力を高めるための5つの視点」を紹介。本記事では1つ目の視点を抜粋して掲載します。
出典:https://note.com/oc_publishing/n/n193661fac236
AIが進化し、社会構造が急速に組み替わっていくいま、私たちは「正解を探す時代」から「問いを立てる時代」へと移行しました。
もはや過去の延長線上に未来はありません。テクノロジーの進化が指数関数的に加速する時代において、未来は“予測”するものではなく、“構想”するものへと変わりました。
テックリーダーの仕事とは、未知と既知の間に橋を架けること。
過去のデータをなぞるのではなく、「まだ誰も語っていない未来」を言語化し、科学・技術・ビジネスの間で形にしていくことです。
そのために必要なのが、「想像力」と「妄想力」です。
サイエンスの本質は、“まだ存在しないもの”を生み出そうとする意思にあります。つまり、想像力と妄想力は、夢想ではなく科学の前工程。未知の可能性を発見し、形に変えていくための“知的装置”なのです。
SF作家が「こうなると面白い」と描いた世界が、やがて現実の技術を動かすように、テックリーダーも想像と現実をつなぐリンケージ(結びつけ)を担います。
重要なのは、単に「未来を夢見る人」ではなく、“実現までのプロセス”を構想できる人であること。
頭の中に「できたら面白いリスト」を持ち、技術や社会がその水準に追いついた瞬間に、過去の構想と今の現実を接続する視点を持つ。その接続の瞬間こそが、イノベーションの種になります。
そして、それを形にするためには常に問う必要があります。「何が課題で、どこを突破すれば実現できるのか」技術的な壁を“見抜く想像力”と、“越える妄想力”の両輪です。
想像力と妄想力。それは、不確実な時代において未来を待つのではなく、自ら設計するための思考の要なのです。
想像力・妄想力を高めるための5つの視点
1.設定の面白い本や映画に触れる
CTOやテックリーダーにとって、未来の社会や自社の事業を先回りして考えることは、まさに生存戦略そのものです。ところが、実務の中だけに視野を置いていると、発想がどうしても過去や既存の延長に引っ張られてしまうものです。そんなときに最も強力な刺激になるのが、設定の面白い本や映画に触れることです。
今はネットワーク配信や電子書籍の普及で、世界中のコンテンツに瞬時にアクセスできる時代です。生成AIの急速な進化もあり、そこから得た情報や感想をAIとの対話で深掘りすることも容易になりました。こうしたツールを活用すれば、想像力・妄想力の筋肉を短時間で鍛えることができます。
常識が非常識に変わる体験を疑似的に味わう
SF映画や「もしも」の設定本は、時代や世界が変わったときに常識がどう崩れるかを体感させてくれます。例えば有名な『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。主人公マーティがタイムスリップした過去で現代の曲を演奏し、誰にも理解されなかったシーンを覚えているでしょうか。時代が違えば、当たり前は当たり前でなくなる。名曲でさえ、誕生していない時代では「無意味な音」にしか聞こえない。
ビジネスに置き換えれば、「今は常識」と思っているものが将来も通用するとは限りません。逆に「昔は非常識」とされたものが、未来では大きな優位性になる可能性もある。こうした視点の転換を、フィクションは安全かつ豊かな形で教えてくれます。
歴史を“企業広報”で読み替える発想
もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた
面白い設定は映画だけに限りません。例えば日本のビジネス書で「大政奉還」を企業広報のプレスリリースに書き換える、というユニークな試みがありました。「徳政令」を「サステナブルでない雇用関係の是正」として説明するなど、歴史的出来事を現代用語に翻訳してみせる視点です。一見突飛に見えるこのアプローチは、過去の出来事を異なるレンズで再構築する訓練になります。テックリーダーにとっても、自分の事業や技術を「別の文脈で語り直す」スキルは大きな武器です。
「秘境ガイド」で仮想体験するメタバース的世界
『地球の歩き方 ムー 異世界(パラレルワールド)の歩き方ー超古代文明 オーパーツ 聖地 UFO UMA』
もう一つの例が、人気の旅行ガイドシリーズが「異世界」や「秘境」をテーマに作った一冊です。普通の旅行では到底行けない場所、実在かどうかも怪しい現象、オーパーツまで網羅している。これは単なる観光ガイドではなく、メタバース的な仮想体験を読者に提供する本です。こうした「現実にない世界」を仮想的に歩く感覚が、テックリーダーの発想にとっては大きなヒントになります。現実の制約を一度外して考えることで、今まで見えなかったビジネスチャンスや技術応用が浮かび上がってくるのです。
技術進化を予見する“SFの眼” 〜 『マトリックス』という体験〜
私が映画『マトリックス』を観たのは2005年頃、43歳のときでした。驚くほど違和感がなかった。むしろ、「まあ、こうなるだろうな」と思えたのです。
あの作品は、AI(エージェント・スミス)と人間、現実と仮想世界の境界を可視化したサイバーワールドの先取りでした。
そして今、メタバースやマルチバースといった概念は、すでに一般の共通言語になりつつあります。スパイダーマンのようなハリウッド映画や異世界転生系のアニメでも、並行世界を当然のように描く時代です。テックリーダーに求められるのは、この“共通概念化された世界”で、何が次に必要になるかを先に構想することです。
SFを“現実に結びつける”リンケージ力
SFは単なる空想ではありません。重要なのは、それを現実の技術やプロダクトと結びつけるリンケージ力です。映画を観ながら、「もしこれをリアルで実装するとしたらどう作るだろう」と想像してみる。たとえば「核融合が小型化したら何が変わる?」と考えると、そこから「いま何が課題で」「どの技術が突破口になるのか」という問いが自然に生まれます。この“課題を見抜く想像力”こそ、テックリーダーに不可欠な視点です。
また、「できたら面白いリスト」を頭の中に持っておくこともおすすめです。「今は無理でも、できたら面白い」という構想を記憶の棚に置いておけば、ある日技術が追いついた瞬間に、それを結びつけて形にできます。
イノベーションは、想像と現実がリンクする一瞬に生まれるのです。
テックリーダーにとってのサンドボックス
設定の面白い本や映画は、単なる娯楽ではありません。それは、仮説を試し、常識を疑い、未来を構想するための「思考のサンドボックス」です。
テックリーダーが未来を読むためには、まず「もしもこうなったら」というシミュレーション環境を、頭の中に持つことが重要です。
現実にない設定の中で、何が起きるかを仮想的に試す。それが、想像力と妄想力の鍛錬になります。こうしたコンテンツに触れることで、日々の意思決定や技術戦略に柔軟さと深みを与えることができます。

