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【第5回】想像力・妄想力を高めるための5つの視点④——将棋AIの示唆

想像力・妄想力を高める5つの視点、4つ目は「将棋AI」。AIはかつて「悪手」とされた戦法を再評価させ、観戦の楽しさまで変えた。常識を疑い、深い探索とデータで検証し直すことが、組織に眠る最適解を掘り起こす。茶谷公之がテックリーダーへのヒントを語る。連載「AI時代のテックリーダー論」第5回。

【第5回】想像力・妄想力を高めるための5つの視点④——将棋AIの示唆

※本記事は茶谷公之さんのnote記事を許諾を得て再掲載したものです。本文は原文のまま、見出し・サムネイル画像のみ編集部で再構成しています。「第1章:想像力と妄想力〜不連続な時代を生き抜く鍵〜」より、「想像力・妄想力を高めるための5つの視点」を紹介。本記事では4つ目の視点を抜粋して掲載します。

出典:https://note.com/oc_publishing/n/n193661fac236

想像力・妄想力を高めるための5つの視点

4.将棋AIの示唆

1997年、IBMのコンピュータ「ディープ・ブルー」がチェス世界チャンピオンのガルリ・カスパロフ氏に勝利しました。当時このニュースは世界に衝撃を与えましたが、その後ディープ・ブルーは進化し、IBMの人工知能「ワトソン」となって2011年にはクイズ番組『ジェパディ!』に登場します。人間のチャンピオンと対戦し、初日は引き分け、総合でワトソンの勝利。この出来事は「AIが知識の世界でも人間を超える」象徴的な瞬間として記憶されています。

人間にクイズで勝ったコンピューター「ワトソン」の素顔 - 日本経済新聞

さらにその後、深層学習の進化、トランスフォーマーの登場、そして生成AIの爆発的発展へとつながっていきます。いまや多くの分野で、AIは人間の作業を代替するだけでなく、むしろ拡張し、常識を覆す役割を果たし始めました。かつてアラン・チューリングが提唱した「チューリングテスト」という言葉が聞かれなくなったのも、AIが人間を超える領域が広がっていることの一つの証でしょう。


天文学的な選択肢に挑むAI

将棋、囲碁、チェスなどのボードゲームは、その指し手のバリエーションが天文学的な数にのぼります。例えばリバーシで10の60乗、チェスで10の120乗、将棋で10の226乗、囲碁で10の360乗。観測可能な宇宙の原子数が10の80乗といわれますから、その膨大さがわかるでしょう。囲碁ではアルファ碁が人間のトップを破り、将棋でもAIがプロ棋士の世界に深く入り込み始めています。

アルファ碁(AlphaGo)とは?AIが人間を超える?何がすごい?概要や仕組みを徹底解説|Generative AI Media

いまや将棋の世界では、プロ同士の対局においても、AIが次の一手や戦況の優劣を解析・表示し、観戦者に新しい視点を提供しています。


AIがもたらした再評価

面白いのは、AIが単に人間に勝つことだけではありません。プロ棋士たちはAIと対戦・研究することでむしろ強くなり、かつて「悪手」とされていた戦法が再評価されるようになってきました。AIが過去に顧みられなかった戦法を発見したり、AIで訓練した棋士が実戦で使うことで新しい潮流が生まれたり。深い探索と膨大なデータが、定石の外側に眠る可能性を引き出しているのです。

“人知を超えた将棋AI“ 将棋界に学ぶ人とAIの共存の未来 | TRYETING Inc.(トライエッティング)


将棋AIがもたらした「観る楽しさ」の再発見

AIは、単に“強くなった”だけではありません。将棋という競技そのものを、より面白くしたのです。

形勢を数値で可視化する「AIスコア」が導入されたことで、観戦者は、藤井聡太八冠が優勢になった瞬間や、劣勢からの逆転を“見える化”された形で体験できるようになりました。かつては専門知識がなければ理解できなかった戦局の妙が、AIの可視化によってエンターテイメントとして開かれた。

これは、AIが人間の知的営みを“観る文化”へ拡張した好例です。技術の力が、思考の世界を共有可能な物語へと変えたのです。


「悪手」の再評価と“妄想する勇気”

AIが将棋にもたらしたもう一つの価値は、「悪手の再評価」でした。人間が長年「常識」として切り捨ててきた手が、AIによって「実は有効」と再発見されたのです。AIは“定石”を超え、想像の外にある最適解を提示しました。

今後こうしたことはさまざまな場面で発見されると思います。つまりこれまで常識・正しいと思われていたことが、今のテクノロジーや計算資源を使うと、違う見方をすることができる。

だからこそ、これまでの固定観念に捉われない想像力と妄想力が必要だと思うのです。


AIが変えた「学び」と「仕事」

将棋AIの進化は、学び方そのものも変えました。人間がAIに教えるのではなく、AIから学ぶ時代が始まったのです。

いま、プロ棋士たちはAIと日々対話し、壁打ちのように自分の考えを検証しています。これは、あらゆる知的職業に共通する新しい学習スタイルでもあります。

例えば、コンサルタントやエンジニアもAIと壁打ちをしながら仮説を立て、最初の承認を“上司AI”から得てから人間の上司に提案する、という企業も登場しています。

同時に、AIがコーディングを支援するようになったことで、ジュニア層のエンジニアや若手コンサルタントの役割が変化しています。「AIでもできる仕事」が可視化された今、人間に求められるのは“コアを見抜く力”です。

一方で、AIとの“ロールプレイング的壁打ち”は、若手の育成にも応用できる可能性があります。AIを「練習相手」として、仮説思考や対話力を鍛える。これは、AI時代の新しい教育市場を生むかもしれません。

テックリーダーにとってのヒント

この将棋AIの進化は、企業活動にもそのまま当てはまります。私たちがこれまで「悪手」と考えて避けてきた戦略や企画も、より深いデータと探索力で見直せば「実は最適解」になるかもしれません。浅いシミュレーションや限られたデータに基づく判断は、未知の可能性を切り捨てていることがあります。将棋AIが人間の固定観念を壊したように、AIと膨大なデータの組み合わせは、あなたの組織に隠れている最適解や新しい市場を見つけ出すかもしれないのです。

テックリーダーは、こうした「深い探索力」をどう活かすのか。常識を信じるか、データで検証するか。

日本最大のディープテックDB企業1,092社・投資家503社・大学106校
茶谷 公之
オフィスちゃたに代表 / 元PlayStation CTO
茶谷 公之

ソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)で歴代のPlayStationの開発に携わり、同社CTOを務める。その後、楽天執行役員、KPMG Ignition Tokyo CEO、KPMG ジャパン CDO、マッキンゼーのデジタルチーム Build by McKinsey 日本統括などを歴任。現在、オフィスちゃたに株式会社 代表取締役。数多くの企業の成長・成功支援を行う。執筆家としては、Forbes JAPAN オフィシャルコラムニストとして連載中。著書として『創造する人の時代』(日経BP、2023年)および同韓国語版、『プレイステーションの舞台裏』、"Behind the Scenes at PlayStation: Former CTO Talks about 16 Years of Creation"、『未来を創るリーダーへの道標』3部作(生存戦略編、実践実行編、未来展望編)、"A Compass for Leaders who Create the Future" (Survival Strategy edition, Practical Implementation edition and Future Outlook edition)を刊行。書家 茶谷公哲としては、英米の新生児の名前を縁起の良い漢字で表現した書作品図鑑 "Ink & Blessing" (50 Boy / Girl Baby Names in Auspicious Kanji) Series 4冊を上梓し、世界17のアマゾンストアで提供中。公益財団法人 独立書人団主催 独立書展や毎日書道会・毎日新聞社主催 毎日書道展に書作品を出品。富山書道会 会員、独立書人団 準会員。