※本記事は茶谷公之さんのnote記事を許諾を得て再掲載したものです。本文は原文のまま、見出し・サムネイル画像のみ編集部で再構成しています。「第1章:想像力と妄想力〜不連続な時代を生き抜く鍵〜」より、「想像力・妄想力を高めるための5つの視点」を紹介。本記事では5つ目の視点を抜粋して掲載します。
出典:https://note.com/oc_publishing/n/n193661fac236
想像力・妄想力を高めるための5つの視点
5.時間の増幅器としてのコンピュータ
20世紀最大の発明のひとつ、コンピュータ。いまや私たちの生活やビジネスは、その存在なしには成り立ちません。かつて数学者たちが膨大な時間と人生を費やして求めた円周率や複雑な計算は、いまや瞬時に実行できます。株式取引の世界でも、かつて「場立ち」のディーラーたちが手信号で取引していた光景は記録映像の中だけのものになりました。
1987年10月のブラックマンデーでは、取引所で呆然と立ち尽くす人々の映像が世界に流れましたが、今や株式取引はミリ秒・マイクロ秒の世界。高頻度取引(HFT=High Frequency Trading)という「時間との戦い」が常態化しています。このHFTの実話を映画化した『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』は、超低遅延ネットワークを構築し他社より一歩早く裁定取引を行おうとする人々を描きました。
ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち : 作品情報・キャスト・あらすじ・動画 - 映画.com
また1990年代後半に普及が始まった電子商取引(Eコマース)も、コンピュータが「時間の加速器」としてもたらした大きな転換でした。物理的店舗に行かずに商品を選び、買うという行動は、ユーザーの生活時間そのものを再設計したのです。
「時間の加速器」から「時間の増幅器」へ
これまでコンピュータは、より早く目的地に到達するための「時間の加速器」として機能してきました。しかしデジタルツイン、メタバース、シミュレーション、そしてAIの登場により、その役割はさらに進化しつつあります。いまや私たちは「別の時間軸」にもう一人の自分を置くことが可能になりつつある。パラレルワールド的な環境でテストし、シミュレーションし、学習する。コンピュータは「時間の加速器」から「時間の増幅器」へと姿を変えはじめています。
ハリウッド映画でもメタバースやマルチバースを題材にした作品が次々と公開され、ミシェル・ヨーが主演した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はその象徴のひとつです。
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス : 作品情報・キャスト・あらすじ・動画 - 映画.com
生成AIを使えば、音声や画像を通して簡単に自分のアバターをつくり、複数の世界で同時に活動する感覚を持てるようになりました。
教育・ビジネスにおける「時間の増幅」の実例
たとえば大学の講義。先生が自分のアバターを作り、講義部分をアバターに任せ、質疑応答だけ自分で行うとしたらどうでしょうか。60分の授業のうち50分をアバターが講義し、残り10分を先生が質問対応にあてる。この仕組みをパイプライン的に組めば、単純計算で6倍の講義を並列で提供できる可能性があります。
これは単なる「時短」ではなく、「時間そのものを増幅する」使い方です。こうした発想は教育に限らず、企業活動や新規事業の運営にも応用できます。
パラレルワールド的思考 〜想像力と妄想力の新しい舞台〜
この「時間の増幅」という考え方は、やがてパラレルワールド的発想へとつながります。複数の世界で同時に自分が活動し、その成果を統合する。それはまるで、自分の中に“もう一つの人生”を走らせるようなものです。
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映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』公式サイト
こうした世界観は、映画やアニメの中でも急速に共通概念化しています。マーベルの『ドクター・ストレンジ』、ミシェル・ヨー主演の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、そして日本では「異世界転生モノ」。私たちはいま、マルチバースを「理解できる世代」として生きています。
ここに、テックリーダーにとって極めて重要な示唆があります。“共通概念化された未来”の中で、次に何が必要になるかを想像する力。それこそが、次のアプリケーション・サービス・産業を生み出す起点なのです。
「共通概念の先を読む」創造力
たとえば、コンピュータが普及し、そこに無線通信を組み合わせた人が「携帯電話」を発明しました。さらにその携帯電話に“ボタンが多すぎる”と不満を持った人が、「そんなものはいらない」と言ってタッチパネルを作った。Appleの発想です。
つまり、創造とは、共通概念の中で“次の必然”を妄想すること。「今ある常識をどう再構築するか」を描ける想像力が、時間を増幅するテクノロジー時代における最大の武器です。
まとめ 技術力よりも「想像力」と「妄想力」
ここまで「未来のテックリーダーに必要な生存戦略」として、想像力・妄想力を高める5つの視点を紹介してきました。
設定の面白い本や映画に触れること。地政学からマクロな変化を読み解くこと。医療の進化に学び、企業診断の未来を構想すること。将棋AIに見る「悪手の再評価」や深い探索の価値。そして、コンピュータを「時間の増幅器」として使う発想。
一見バラバラに見えるこれらのテーマは、実はひとつの共通した問いに収束しています。「あなたは、既存の前提に縛られず、どれだけ先の未来を描けるか」という問いです。
これまで常識だったものが、ある日突然非常識になる。非常識だと思われていたものが、未来のスタンダードになる。この変化の波に押し流されるか、それとも波の形を読み取り、先に乗るか。それを決めるのは、技術力よりも先に「未来を想像する力」と「ありえない未来を妄想する力」なのです。

