※本記事は茶谷公之さんのnote記事を許諾を得て再掲載したものです。本文は原文のまま、見出し・サムネイル画像のみ編集部で再構成しています。「第1章:想像力と妄想力〜不連続な時代を生き抜く鍵〜」より、「想像力・妄想力を高めるための5つの視点」を紹介。本記事では3つ目の視点を抜粋して掲載します。
出典:https://note.com/oc_publishing/n/n193661fac236
想像力・妄想力を高めるための5つの視点
3.医療の進化から見えてくる企業診断の未来
コロナ禍での医療従事者の献身は、まさに人類全体の記憶に残る偉業でした。限られた人員と未確定な情報の中で最善を尽くし続ける姿は、私たちテックリーダーにとっても「判断力」と「行動力」のモデルです。
医療業界のデジタル化から学ぶ
その医療の世界にも、いま猛烈なスピードでデジタル化が進んでいます。病院によっては予約がオンラインのみになり、電話すらありません。ユーザー登録を済ませ、空き時間を見てアポイントを取るだけ。検査当日は、到着後に検査着に着替えてMRI検査を30分ほどで終え、15分ほどで医師と結果を確認、支払いはカードやデジタルペイで完結。詳細な結果は1週間後にウェブサイトにアップロードされ、スマートフォンで確認できる。忙しい人でも時間や場所に縛られず結果を受け取れるようになりました。
この流れに触れるたびに、「これこそカスタマーエクスペリエンスの進化だ」と実感します。人間ドックなどの検査で最もストレスフルなのは「待ち時間」。この待ち時間を短縮することが、どれほど患者の体験を変えるかを医療DXは示してくれています。
そしてAIの進化によって、画像診断や判定精度は人間の専門医を超えはじめ、治療から予防へのシフトが現実味を帯びてきました。従来は痛みや症状が出てから「その部位だけ」を調べていましたが、今は体全体をスキャンして潜在的な問題を先回りで捉える時代です。
この「全身スキャン」による予防の発想は、企業経営にも当てはまります。
サンプリングの限界 〜医療と監査に共通する課題〜
医療の現場では「サンプリング診断」の限界が明らかです。1分間の心電図で「異常なし」と言われても、それは24時間のうちの数十秒を切り取った結果に過ぎません。実際には、異常はその“見ていない時間帯”に起こっていることが多いのです。
企業監査も同じ構造を抱えています。監査法人が実際に見るのは、重要な取引など注意を要する取引であり、全取引のうちわずか。それは“企業の心電図の一部”を測定しているにすぎません。しかも監査のそもそもの目的は「法律上の手続き確認」であり、意図的な不正の発見を目的としていない。現実には、多くの不正が内部通報という偶然の発作でしか見つかっておらず、政府広報によれば約6割が内部通報に起因するものと報告されています。また外部監査による不正発見は全体の7%となっています。
AIが変える「全身スキャン型企業診断」
医療がサンプリングから「全身スキャン」へ進化したように、企業診断もAIとビッグデータによって、全量解析の時代に入りつつあります。
スーパーコンピューターが財務・取引・コミュニケーションログを横断的に分析し、AIフォレンジックが曖昧な言葉や異常なパターンを検出する。
例えば「お台場から赤坂に届けて」であれば「フジテレビからTBSに届けて」
そうした隠語の裏に潜む構造的異常を、AIは高速で洗い出すことができます。
部分ではなく、全体の整合性と時系列のゆがみを見る。
異常を可視化する〜データが語る「某AI企業不正会計事件」〜
AIスタートアップ企業による不正会計疑惑は、今のホットトピックだと思います。この事件は、企業における全身診断の必要性を感じざるを得ない事件でした。
売上100に対して広告宣伝費が80という異常値。外から見ればほとんど広告を見かけないにも関わらず、巨額の費用が計上されていた。それは、体表には異常が見えないのに、内臓に腫瘍がある状態に似ています。
似たようなニュースで、インドのAIスタートアップが「自動化」を掲げながら、実際には裏で人力プログラミングを行っていたことが倒産後に発覚したこともありました。これも大手出資者が、現地を訪れていればすぐに分かったはずの一件です。
これら2つの出来事も、AIによる全量分析があれば、早めに違和感に気づけたはずです。“見ている部分”だけではなく、“見えない部分・見えにくい部分”もAIによって、見える化していく。こうした必要性を感じるニュースでした。
想像力・妄想力を補う「診断思考」
医療DXの進化は、単に「便利になった」という話ではなく、リアクティブからプロアクティブへのシフトを象徴しています。問題が顕在化する前に「予防」する、潜在的な課題を先に炙り出す、複雑な全体像をデータで把握する。この発想を、自社のサービス開発や組織運営に取り入れられないか。あるいは、自社そのものを「診断・予防」できる体制を構築できないか。
医療が変わったように、企業診断の常識も変わろうとしています。そうして企業診断が当たり前になった時に、企業を定点観測をすることが可能になります。
これらのデータをもとに、テックリーダーは、そこからどんな未来を構想し、どんな準備を始めるか。
「想像力」と「妄想力」を高めるためには、時に現実的なデータが必要であり、それらを示唆しているのか医療DXの例なのです。

