PlayStationで、半導体からネットワークまでの「層」を上りきった茶谷公之(ちゃたに まさゆき)さん。2014年にソニーを退職後は、さらにその上の層、クラウドとデータの世界に移ります。楽天やKPMG、マッキンゼーで数々のAIプロジェクトを推進するキャリアを歩みました。
PlayStationの次には何がある?
──ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)を離れて、2014年に楽天へ転職されたんですね。
茶谷公之 技術的に言うと、楽天はPlayStationのさらに上の層なんですよ。クラウドとか、クラウドの上のAIとか、ネットサービスから日々上がってくるユーザーの行動データとかが見られる。

<※編集部作成>
──データの層ですか。
楽天のデータって、日本人の欲望を表したデータじゃないですか。ある意味、日本の一般コンシューマーの経済状況が見える。それがすごくおもしろいと思って。プレイステーションだと、ゲームってそんなに頻繁に買わないし、ユーザー層もだいたい想像がつくでしょ。楽天は楽天市場に楽天トラベル、楽天銀行、楽天証券まであるからね。
──買い物も、旅行も、お金も、生活が丸見えですよね。
生成AI前夜のチャットボット
──楽天では、何を作っていたんですか?
茶谷公之 AIですね。たとえば、行ったり来たり対話しながら、その人に合う携帯端末をおすすめするAIとか。
──チャットボットのような。
そうそう。社内向けもあって、最終的にチャットボットだけで70個ぐらいリリースしたんですよ。楽天って当時、半分以上が日本人じゃなかったんで、英語と日本語で人事の質問に答えるチャットボットとかを作ってました。年末調整とか源泉徴収って、毎回まったく同じ質問が来るから、FAQみたいに答えられるようにした。あとは「NDAを作ってください」っていうリクエストに、チャットボットが要件を聞いて埋めて返すとか。
──10年前に、今の企業がこぞってやっていることをもうやってたんですね。
赤鉛筆の検算を、コンピュータに
──そして2019年からKPMGへ。監査法人って、だいぶ毛色が違いませんか?
茶谷公之 ずっと事業会社にいたんで、プロフェッショナルファームを1回見てみてもいいかなと。それで、デジタルの子会社KPMG Ignition Tokyoを立ち上げました。規模としては、130人ぐらいまでいったんじゃないかな。7割が日本人以外で、国籍で言うと30カ国。

<KPMG Ignition Tokyoの社員の母国語で作った“Corporate Vision”Tシャツ(本人提供)>
──監査法人のデジタル子会社って何をするんですか?
監査や税務のAI化と、そのためのツールを作ってた。
──たとえば、どんなツールですか?
企業って年に1回、有価証券報告書っていうきっちりしたドキュメントを出すんだけど、売上からコストを引いて粗利で……っていう筆算が、結構間違ってるんですよ。四捨五入するから、桁の上がり下がりでね。それを若手の会計士が赤鉛筆と電卓で検算してた。胃が痛くなる仕事ですよ。そこの検算をコンピュータにやらせて、間違っていたらアラートを出す。
──確かに、コンピュータがいちばん得意なやつですね。めちゃくちゃ効率化しそう……!
ビットコインを全量監査する
茶谷公之 あとは、ビットコインみたいな仮想通貨ね。監査には、バランスシートに載っているものが本当に存在するかを確かめる「現物確認」の手続きがあるんです。現金1億円なら、銀行に残高確認の証明書を頼めばいい。でも仮想通貨には銀行に当たるものがないでしょ。
──あー、確かに。どこにも預けてないってことですもんね。
だから、インターネット上のチェーンをたどって、デコードして、取引記録と合っているかを確認する。しかも、これまでの監査みたいに一部を抜き出して確かめるサンプリングじゃなくて、全量確認。簡単にいうと、目視でやっていたのを自動化したんです。

<当時はこんなたくさんのカメラでキャプチャーしていた(本人提供)>
取材・文:RUNA NAITO / 取材日:2026年7月31日

