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台湾人が先に動き、日本人が後ろを固める。日台ジョイントベンチャーのすすめ

台湾の国家発展委員会のTokyo Hubを立ち上げ、2026年7月から日台提携ファンドを運営するJenT Capital代表・前原李道道氏へのインタビュー。日本で消えていった台湾スタートアップ、会社設立とビザの「卵と鶏」、台湾人と日本人の組み方、投資家連盟と1号ファンド、日台合宿の構想までを語り合った。

台湾人が先に動き、日本人が後ろを固める。日台ジョイントベンチャーのすすめ

「お金を持っていても、2、3年で市場にうまく進出できなくて、お金を全部使って会社を売ってるようなことが結構あったんです」。台湾の国家発展委員会(NDC)の依頼で、スタートアップブランド「Startup Island TAIWAN」初の海外拠点「Tokyo Hub」を立ち上げ、2026年7月からは日台企業の提携を支援するファンドを運営するJenT Capital代表の前原李道道さんは、日本市場に挑んでは消えていった台湾のスタートアップを何社も見てきた。

日台のスタートアップを長く間近で支えてきた前原さんに、DEEPPOINT開発責任者の伊藤匡平が話を聞いた。

この記事でわかること
  • 台湾のスタートアップが日本で2〜3年で撤退してしまう理由と、ビザと銀行口座の堂々巡り
  • 台湾人が先に動き、日本人が後ろを固めるという組み方
  • 投資家連盟、1号ファンド、日台合宿という3つの取り組み

台湾のスタートアップが、日本で撤退する理由

伊藤 匡平

まず、前原さんがスタートアップ支援に関わるようになった経緯から教えてください。

前原 李道道/JenT Capital

もともとは日本でいろいろな企業のコンサルティングをしていて、そのなかで台湾企業の日本進出支援も手がけるようになりました。クライアントはほとんどが日台の大企業で、会社法や労働基準法といった法務・労務のアドバイスが仕事の中心でした。その仕事を続けるうちに、台湾の国家発展委員会から「台湾のスタートアップが海外に出る第一歩になる拠点を作ってほしい」と依頼されて、東京に「Startup Island TAIWAN」のTokyo Hubを作ったんです。

そこで初めて、本当の意味でスタートアップという存在に出会いました。大企業とはまったく違う課題と需要があって、制度の知識だけでは太刀打ちできなかった。

伊藤 匡平

台湾のスタートアップが日本に来て、どこでつまずくのでしょう?

前原 李道道/JenT Capital

台湾みたいに簡単に進出できると思っている会社が多かったんです。技術があるし、熱意もある。お金もある。でも日本市場を自分の国と同じように見てしまって、2、3年で撤退する。お金を全部使って会社を売る、ということが結構ありました。

日本の会社は外資に対して慎重です。「すぐ撤退して、サポートが受けられなくなるんじゃないか」と思われる。お客さんを獲得したあとに何か問題が起きたとき、対応できない。フォローアップの壁ですね。だから、プロダクトは台湾企業が作って、国内の販売とアフターサービスは日本のパートナーが担う、という形が要るんです。

ビザと口座の堂々巡りを、日本人との共同代表で抜ける

伊藤 匡平

Tokyo Hubで一番多かった相談は何でしたか?

前原 李道道/JenT Capital

海外の人が日本に来て会社を作るときの手続きです。誰に頼んでも分からない、という相談がたくさんある。会社を作ったら人を雇う。雇うときは社労士に聞かないといけない。でも何を聞けばいいのかも分からない。それにビザのために会社を設立するんですけど、設立してから、台湾人だけだと銀行口座が開けないんです。

伊藤 匡平

日本に居住している人がいないと、口座が開けない?

前原 李道道/JenT Capital

そう。でもこれは卵と鶏の問題で。居住するためにはビザが必要。ビザを取らないと来られない。会社の口座を作らないと会社を運営できない。運営できないと、ビザが取れない。

伊藤 匡平

ええ、すごく矛盾していますね……。逆に言うと、日本人と一緒にジョイントベンチャーを作れば一気に楽になる、と。

前原 李道道/JenT Capital

長年考えた結果、そこなんですよ。日本人とジョイントベンチャーを作らないと、最初のスタートができない。海外の人はみんなそうです。CEOとCTOのように代表を2人にして、1人が日本人であれば口座も作れる。

伊藤 匡平

納得しました。日本にとっても、同じ会社で一緒にやったほうがメリットは大きいですし。

前原 李道道/JenT Capital

だから信頼関係を作るために、台湾の人を日本に連れてきて、日本の人を台湾に連れて行って、お互いに知り合ってもらっているんです。

台湾人は金魚のように速く、日本人は周りを見てから動く

伊藤 匡平

台湾の人と日本の人が一緒に会社をやるとして、どういう役割分担がうまくいくんでしょう?

前原 李道道/JenT Capital

台湾人は動きが速い。でも、考えているのは目先のことだけ。本当に金魚みたいで、目の前にあるものをすぐ食べる(笑)。日本人は、周りのことをいろいろ考えてから動く。だから台湾人が先に動いて、後ろで周りを見てくれる日本人のパートナーがいれば、速く行けるし、周りもちゃんと見られる。会社としてうまくいくんです。

伊藤 匡平

一方の日本人はスピードが遅いから、組むと相性がいいんでしょうね。台湾の人の速さはどこから来るのでしょうか?

前原 李道道/JenT Capital

隣に脅威がずっとあるからです。早く動いて、早く逃げ出すことがすごく大事。アメリカにこれだけ台湾の企業や台湾の人がいるのは、そういうことなんです。台湾人に英語が上手な人が多いのも、どこかで落ち着く場所を探しているから、ちゃんと習っている。

伊藤 匡平

なるほど……。日本人は、その感覚がずっと薄かったと思います。中国の国際政治的な野心を頭では分かっていても、最近やっと体で分かってきた、という感じで。

余談ですが、FTXという当時は世界で2番目に大きかった仮想通貨取引所も、当初は台湾にアジア拠点を作るはずだったんです。しかし台湾有事が発生するリスクが高い、という情報を得たことで諦めた。

前原 李道道/JenT Capital

だから、そういう人材を台湾から連れてきて日本でやればいい。東南アジアでも、アメリカでも、一緒にやればいいんです。

伊藤 匡平

台湾にアメリカや日本など、いろいろな国の資本が入っていれば、台湾を守る理由が増える。そのほうがいいんでしょうね。

前原 李道道/JenT Capital

TSMCはもともと台湾政府が出資した会社で、今でも政府が最大の株主だと思います。台湾から出るわけにはいかない。政府が同意しないでしょう。

伊藤 匡平

「国を守る盾」のような覚悟があるんですね。かっこいい話です。

ソフトウェアは、ハードウェアに乗せて台湾で作る

伊藤 匡平

日本のスタートアップが台湾に出ていく場合、前原さんはどうアドバイスしていますか?

前原 李道道/JenT Capital

日本のスタートアップはソフトウェアやAI単体のサービスが多い。でもAIだけだと似たようなものが多いし、真似されやすい。だからハードウェアに乗せる必要があると考えています。GPUやサーバーの製造は台湾の強みですから、小さなサーバーや専用機のような、目に見えるプロダクトにして市場に出す。台湾では高品質なプロトタイプを安く作れるので、開発の初期段階から台湾のパートナーと一緒に作ることを勧めています。

私はピッチ大会の審査員をよくやるんですけど、AIやソリューション系は3社目くらいで記憶から消えていくんです。「この会社、何だったっけ」となる。そのなかにハードウェアが1社あると、みんなの目がそこに行く。

伊藤 匡平

台湾と組んでハードウェアを作った例はありますか。

前原 李道道/JenT Capital

シリコンバレーにいる台湾人のチームが、家事を手伝う人型ロボットを本当に作ったんです。二足歩行は難しいから、上半身だけで下はタイヤ。片付けや掃除ができる。去年シリコンバレーで発売して出荷して、今年は台湾のお客さんにも送っている。ああいうものは本当に2、3年でできてしまう。

一方で、日本にも人型ロボットを作りたかった会社があったんですけど、量産を誰に頼むかという問題が大きくて、結局作れなかった。今は中国にも頼めないでしょう。台湾の業者を探せば、できるんですよ。

伊藤 匡平

めちゃくちゃいい話ですね。本来、日本こそ人型ロボットが喫緊で必要な社会なのでもっと作らなければいけないのに、なかなか形になっていない。台湾と組んでそれができるなら、それが一番いいと思います。実際、僕の友人で福岡で物流企業をやっている人も、ハードウェア事業のために台湾で工場を探していて、高雄のイベントに連れて行きたいと思っているんです。

前原 李道道/JenT Capital

高雄は製造業の街ですから。ハードウェアの人は、みんな行くべきです。

投資家連盟と、10億円の1号ファンド

伊藤 匡平

資金面では、どんな仕組みを作ろうとしているんですか。

前原 李道道/JenT Capital

日本への投資に関心を持つ台湾の企業は増えているんですけど、台湾のCVCやVCが一社ずつ日本のスタートアップの実態を理解して直接投資するのはハードルが高い。そこで考えているのが投資家連盟です。台湾の環境分野にはすでにこの仕組みがあって、100社ほどの投資家連盟が選んだ投資先に、環境省が同額を上乗せする。同じ発想を日本向けにやりたい。「私はこの会社に投資する」という人が現れると、じゃあ私も、と続いていく。仮に民間で3億円集まれば、台湾側の行政も3億円を上乗せして、合計6億円の規模になる。年内の立ち上げを目指しています。

投資家連盟のしくみ
  • 参加するのは、VC、CVC、エンジェル投資家など約100社
  • 連盟内で合意した投資先に、民間が出資する
  • 民間が3億円を出せば、台湾側の行政が同額の3億円を上乗せし、合計6億円規模にする
伊藤 匡平

前原さんご自身も、ファンドを作られたんですよね。

前原 李道道/JenT Capital

6月いっぱいでTokyo Hubの仕事を離れて、今は小さなファンドを作っている最中です。台湾のスタートアップのためのハブでは、日本のスタートアップを台湾に連れて歩く理由を説明しにくかった。でも日台の協業は、日本側と一緒に動いてこそ台湾のスタートアップのためになる。だから自分でやることにしました。

投資先は、台湾企業と組もうとする日本側の人たちが作るジョイントベンチャーです。LPはみんな日本人。台湾のVCは日本企業にお金を出したがらないので、台湾人は1人もいません。1号ファンドの規模は10億円くらいを考えています。ハードウェアで台湾に工場を作るとなると、やっぱりお金がかかるので。

伊藤 匡平

1号ファンドで10億円はすごいですね。前原さんのファンドに投資したい日本の企業もいっぱいあるはずなので、ぜひご紹介したいです。ただ、日本のスタートアップの側から見ると、ただお金を出すだけのVCは今、全然人気がないんですよ。何かしら事業を助けてくれる人からはお金をもらいたいけど、ただのVCからはあまりもらいたくない。

前原 李道道/JenT Capital

お金だけじゃなくて、コネクションとか、成功するルートを作ってあげたい。投資するなら、将来ちゃんと儲かるところまで。

名刺交換より、2〜3日の合宿

伊藤 匡平

信頼関係を作るために、具体的に何をするんですか。

前原 李道道/JenT Capital

いろんなイベントに行って、たくさん名刺交換しても、最終的に誰が誰なのか分からなくなってしまう。ほとんどそうです。でも今回のツアーのように、2、3日一緒にいた人たちは仲良くなる。

だから考えているのが合宿です。学生の発想ですけど(笑)。台湾のスタートアップと日本のスタートアップで合宿をやって、金曜から日曜で「仮の会社」を作る。メンターをたくさん入れて話し合って、最終日に「こんな事業ができる」と発表してもらう。本当にスタートアップができてしまうかもしれない。

伊藤 匡平

すごくいいですね。僕は今まで数え切れないほどスタートアップのイベントに行きましたけど、台湾のカンファレンスが一番よかったんです。日本やアメリカの大きなカンファレンスは正直、とりあえず名刺交換をして終わりで、何かにつながった実感があまりなかった。台湾は具体的なものにいろいろつながった。一緒にいた日本のスタートアップも、いろんなパスをもらって助かっています。

前原 李道道/JenT Capital

大学生版もやりたいんです。台湾側は台湾大学と、新竹サイエンスパークの隣にある交通大学。サイエンスパークはTSMCのために作られた場所で、交通大学はTSMCの人材のほとんどを出している。TSMCの若い人は20年くらいで辞めて、40代で悠々自適に暮らしている人が多い。そういう人たちをコーチやメンターにして、学生を連れてきて、日本で起業するとはどういうことかを仮に体験してもらう。日本側は東大、慶應、早稲田。

私はスタートアップウィークエンドでメンターと審査員をやったことがあるんですけど、週末の間にみんな日本語が伸びるんです。終わりには日本語でピッチできるようになっていた。日本側も台湾側もすごく伸びる。そういう合宿をやってみたい。会場は、観光が盛んでない市町村が持っている施設なら安く使えます。

用語メモ

新竹サイエンスパーク ── 台湾北西部の新竹市にある科学工業団地。半導体をはじめ、台湾のハイテク産業の集積地として知られる。

交通大学 ── 2021年に陽明大学と合併し、現在は国立陽明交通大学。理工系に強く、新竹キャンパスがサイエンスパークに近い。

台湾のスタートアップで、女性が働き続けられる理由

伊藤 匡平

台湾のスタートアップを見ていて、日本と一番違うと感じることは何ですか。

前原 李道道/JenT Capital

台湾のスタートアップには、ほとんどの場合、女性がいます。結婚しても、子どもが生まれても働き続けるのが普通。0歳から預けられる保育園がたくさんあって、子どもが熱を出しても「お迎えに来てください」とは言われない。働き続ける母親を支える行政の仕組みが、日本よりずっと厚いんです。私自身、大学4年生のときに出産して、就職活動をやめて台湾に帰りましたが、理由は単純で、そういう支えがあったからでした。

日本のスタートアップに台湾人のCFOやリーダーが加わって、リモートワークで子育てと両立しながら働く。日台をまたいで、いろんな人材が自宅から働ける組織にする。そういう座組みも可能性の一つだと思っています。

初めての海外進出は、台湾から

伊藤 匡平

日本の起業家に、なぜ最初の海外進出先として台湾を勧めるんですか?

前原 李道道/JenT Capital

日本人は海外に出る経験が少ないと思うんです。起業したら一度は海外に行ってみてほしい。そのハードルが一番低いのが台湾です。みんなフレンドリーだから、英語がうまく話せなくても馬鹿にされない。言葉が通じなくても、台湾のパートナーは理解しようとしてくれる。

それに、台湾のスタートアップは東南アジアの全部とつながっているんです。高雄のイベントに行けば分かります。自分で一つずつ開拓するのは大変だけど、すでにルートを持っている人たちと一緒に行けば、東南アジアの市場に全部行ける。そのベースになるのが信頼関係です。

伊藤 匡平

逆に、台湾の企業が日本に来るときの入口はどこですか?

前原 李道道/JenT Capital

福岡が多いですね。台湾から一番近くて、東京と比べてまだ安い。まず福岡に行く会社が多いんです。

伊藤 匡平

今回の台湾エキスポツアーは、本当に手応えがありました。日本の起業家がまず台湾に行って、そこから東南アジアへ、という流れは、DEEPPOINTとしても一緒に作っていきたいです。

前原 李道道/JenT Capital

台湾のほうも、私がやりましょうか。台湾の会社を連れてきて、みんなにインタビューして。やりましょう。

伊藤 匡平

良いですね!ぜひお願いしたいです。

対談の最後に、前原さんは台湾の企業を連れてきてインタビューする、と申し出てくれた。DEEPPOINTは記事にして終わりではなく、ビジネスマッチングや出資、人材の橋渡しまで進めていく。台湾企業への取材も、今後あらためてお届けする。

取材・文: 伊藤匡平 / 取材日: 2026年6月(台湾エキスポツアー)・7月(東京)

日本最大のディープテックDB企業1,092社・投資家503社・大学106校
伊藤匡平
開発責任者
伊藤匡平

国内外のWeb3企業にてCTOや事業責任者を歴任。予測市場プロジェクトではグローバルハッカソン受賞実績を有し、プロダクト開発、技術戦略、事業推進を横断して担う。DEEPPOINTでは、メディア・コミュニティ・データ基盤を支えるプロダクト設計、技術開発、事業実装を推進する。